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弁護士法23条の2第2項に基づく照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えの適否

平成30年12月21日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
弁護士法23条の2第2項に基づく照会をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法である。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88205

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/205/088205_hanrei.pdf

 

第1 事案の概要

1 本件は,郵便事業株式会社に対して弁護士法23条の2第2項に基づき原判決別紙の照会(「本件照会」)をした弁護士会である被上告人が,上記会社を吸収合併した上告人に対し,本件照会についての報告義務があることの確認を求める事案である。

2 原審は,上記の確認請求(「本件確認請求」)に係る訴えの確認の利益について次のとおり判断し,上記訴えが適法であることを前提として,本件確認請求の一部を認容し,その余を棄却した。
本件確認請求が認容されれば,上告人が報告義務を任意に履行することが期待できること,上告人は,認容判決に従って報告をすれば,第三者から当該報告が違法であるとして損害賠償を請求されたとしても,違法性がないことを理由にこれを拒むことができること,被上告人は,本件確認請求が棄却されれば本件照会と同一事項について再度の照会をしないと明言していることからすれば,本件照会についての報告義務の存否に関する紛争は,判決によって収束する可能性が高いと認められる。したがって,本件確認請求に係る訴えには,確認の利益が認められる。

第2 上告代理人の上告受理申立て理由第1の6について

1 所論は,本件確認請求に係る訴えに確認の利益を認めて本件確認請求の一部を認容した原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというものである。

2 弁護士法23条の2第2項に基づく照会(「23条照会」)の制度は,弁護士の職務の公共性に鑑み,公務所のみならず広く公私の団体に対して広範な事項の報告を求めることができるものとして設けられたことなどからすれば,弁護士会に23条照会の相手方に対して報告を求める私法上の権利を付与したものとはいえず,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない(最高裁平成28年10月18日第三小法廷判決)。これに加え,23条照会に対する報告の拒絶について制裁の定めがないこと等にも照らすと,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても,弁護士会は,専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはないといえる。そして,確認の利益は,確認判決を求める法律上の利益であるところ,上記に照らせば,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力は,上記報告義務に関する法律上の紛争の解決に資するものとはいえないから,23条照会をした弁護士会に,上記判決を求める法律上の利益はないというべきである。本件確認請求を認容する判決がされれば上告人が報告義務を任意に履行することが期待できることなどの原審の指摘する事情は,いずれも判決の効力と異なる事実上の影響にすぎず,上記の判断を左右するものではない。
したがって,23条照会をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである。

3 以上によれば,本件確認請求に係る訴えは却下すべきであり,原審の判断のうち本件確認請求の一部を認容した部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。

第3 職権による検討
前記第2の説示のとおり,本件確認請求に係る訴えは却下すべきであり,原審の判断のうち本件確認請求の一部を棄却した部分にも,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

第4 結論
以上によれば,原判決の全部を破棄し,本件確認請求に係る訴えを却下すべきである。 

 

参考:個人情報保護委員会の見解

Q5-7
個人情報取扱事業者が、弁護士法第 23 条の2に基づいてなされる報告の請求を弁護士会から受けた場合において、本人の同意を得ずに、当該報告の請求に応じて個人データを弁護士会に提供することはできるか。

A5-7
個人情報取扱事業者は、一定の場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで、「個人データ」を第三者に提供することを禁じられています(個人情報保護法第 27 条)。

一方、弁護士法(昭和 24 年法律第 205 号)第 23 条の2は、弁護士が、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができ、当該報告請求の申出を受けた弁護士会は、当該申出が適当でないと認めるときは、その拒絶をすることができ、そうでない場合は、当該申出に基づいて、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる旨を規定しています。

当該規定に基づき、弁護士会が公務所等に対して照会を行った場合、一般的には、報告することによって得られる公共的利益が報告しないことによって守られる秘密、プライバシー、名誉等の利益を上回ると認められる場合において、公務所等に弁護士会に対する報告義務があると考えられることは、複数の判例も認めるところです。したがって、第三者弁護士会)が情報の提供を受けることについて法令上の具体的な根拠があることから、弁護士会からの照会に対する回答は、個人情報保護法第 23 条第1項第1号における「法令に基づく場合」に該当するため、当該報告の請求に応じて個人データを提供する際に本人の同意を得る必要はないものと考えられます。

https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq2-q5-7/