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不特定多数の消費者に向けられた事業者等による働きかけと消費者契約法12条1項及び2項にいう「勧誘」

平成29年1月24日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても,そのことから直ちにその働きかけが消費者契約法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たらないということはできない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86454

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/454/086454_hanrei.pdf

1 本件は,消費者契約法(「法」)2条4項にいう適格消費者団体である上告人が,健康食品の小売販売等を営む会社である被上告人に対し,被上告人が自己の商品の原料の効用等を記載した新聞折込チラシ(「本件チラシ」)を配布することが,消費者契約(法2条3項)の締結について勧誘をするに際し法4条1項1号に規定する行為を行うことに当たるとして,法12条1項及び2項に基づき,被上告人が自ら又は第三者に委託するなどして新聞折込チラシに上記の記載をすることの差止め等を求める事案である。本件チラシの配布が法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たるか否かが争われている。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,昭和48年から,単細胞の緑藻類であるクロレラを原料にした健康食品を販売している。

(2) 被上告人は,平成25年8月21日,クロレラには免疫力を整え細胞の働きを活発にするなどの効用がある旨の記載や,クロレラを摂取することにより高血圧,腰痛,糖尿病等の様々な疾病が快復した旨の体験談などの記載がある本件チラシを,京都市内で配達された新聞に折り込んで配布した。

(3) 本件チラシは,平成27年1月22日以降,配布されていないところ,被上告人は,同年6月29日以降,上記(2)の記載がないチラシを配布している上,今後も本件チラシの配布を一切行わないことを明言しており,被上告人が本件チラシを配布するおそれがあるとはいえない。

3 原審は,法12条1項及び2項にいう「勧誘」には不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないところ,本件チラシの配布は新聞を購読する不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであるから上記の「勧誘」に当たるとは認められないと判断して,上告人の上記各項に基づく請求を棄却した。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
法は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み,消費者の利益の擁護を図ること等を目的として(1条),事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,重要事項について事実と異なることを告げるなど消費者の意思形成に不当な影響を与える一定の行為をしたことにより,消費者が誤認するなどして消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には,当該消費者はこれを取り消すことができることとしている(4条1項から3項まで,5条)。そして,法は,消費者の被害の発生又は拡大を防止するため,事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,上記行為を現に行い又は行うおそれがあるなどの一定の要件を満たす場合には,適格消費者団体が事業者等に対し上記行為の差止め等を求めることができることとしている(12条1項及び2項)。
ところで,上記各規定にいう「勧誘」について法に定義規定は置かれていないところ,例えば,事業者が,その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは,当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから,事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう「勧誘」に当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは,上記の法の趣旨目的に照らし相当とはいい難い。
したがって,事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても,そのことから直ちにその働きかけが法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。

5 以上によれば,本件チラシの配布が不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであることを理由に法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たるとは認められないとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。
しかしながら,前記事実関係等によれば,本件チラシの配布について上記各項にいう「現に行い又は行うおそれがある」ということはできないから,上告人の上記各項に基づく請求を棄却した原審の判断は,結論において是認することができる。
論旨は,原判決の結論に影響を及ぼさない事項についての違法をいうものにすぎず,採用することができない。
なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。