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 抵当権設定登記後に賃借権の時効取得に必要な期間不動産を用益した者が賃借権の時効取得を当該不動産の競売又は公売による買受人に対抗することの可否

平成23年1月21日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,上記登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,当該不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により当該不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗することはできない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/019/081019_hanrei.pdf

1 本件は,公売により第1審判決別紙物件目録記載1の土地(「本件土地」)を取得した被上告人が,本件土地の所有権に基づき,① 本件土地上に同目録記載2及び3の建物(「本件建物」)を所有して本件土地を占有する上告人Y1に対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡すことなどを求めるとともに,② 上告人Y1からそれぞれ本件建物の一部を賃借して占有しているその余の上告人らに対し,本件建物の各占有部分から退去して本件土地を明け渡すことを求める事案である。

上告人Y1は,本件土地を前所有者から賃借していたが,上記公売により消滅した抵当権の設定登記に先立って賃借権の対抗要件を具備していない。

2 所論は,最高裁昭和36年7月20日第一小法廷判決を引用するなどして,上告人Y1は,上記抵当権の設定登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,本件土地を継続的に用益するなどしてこれを時効により取得しており,同登記に先立って賃借権の対抗要件を具備していなくても,この賃借権をもって被上告人に対して対抗することができると主張する。

3 抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないのが原則である。

このことは,抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはないというべきである。

したがって,不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,上記登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,当該不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により当該不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗することはできないことは明らかである。
これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の上記判例は,不動産の取得の登記をした者と上記登記後に当該不動産を時効取得に要する期間占有を継続した者との間における相容れない権利の得喪にかかわるものであり,そのような関係にない抵当権者と賃借権者との間の関係に係る本件とは事案を異にする。また,所論引用に係るその余の判例も,本件に適切でない。論旨は採用することができない。