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課税処分の違法を理由とする国家賠償請求訴訟の提起及び追行に係る弁護士費用が当該処分と相当因果関係のある損害とされた事例

 平成16年12月17日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
地方税の賦課決定を受けた者が,その税額等を納付した上で同決定について審査請求をし,裁決がされないまま約1年2か月が経過した後に当該賦課決定の違法を理由として国家賠償請求訴訟を提起したところ,ほどなく課税庁が当該賦課決定を取り消し,過誤納金の還付等が行われたなど判示の事実関係の下においては,当該訴訟の提起及び追行に係る弁護士費用のうち相当と認められる額の範囲内のものは,当該賦課決定と相当因果関係のある損害に当たる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/605/062605_hanrei.pdf

 1 本件は,東京都荒川都税事務所長(「処分庁」)から固定資産税及び都市計画税の賦課決定を受けた上告人が,同決定は違法な職務執行であるとして,被上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を求める事案である。

 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,平成12年2月25日に設立登記がされた学校法人D総合学院(以下「本件法人」という。)の理事である。東京都荒川区所在の本件建物について,同年3月17日,本件法人を所有者とし,同11年11月30日新築を原因とする所有権保存登記がされた。

 (2) 処分庁は,平成12年10月10日,平成12年度の固定資産税及び都市計画税の賦課期日である同年1月1日における本件建物の所有者は本件法人であるとして,本件法人に対し,上記各税の賦課決定をした。本件法人が同決定について審査請求をしたところ,同13年8月10日,処分庁は,同決定を取り消すとともに,本件建物の上記賦課期日における所有者は上告人であるとして,上告人に対し,上記各税の賦課決定(「本件課税処分」)をした。

 (3) 上告人は,本件課税処分に係る税額及び延滞金を納付した上,本件建物の上記賦課期日における所有者は設立中の本件法人であると主張して,平成13年10月5日,本件課税処分について審査請求をしたが,その後,裁決がされないまま 約1年2か月が経過した。そこで,上告人は,被上告人に対し,同14年12月11日,本件課税処分が違法であるとして,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償の支払を求める本件訴訟を提起した。上告人は,本件訴訟において,当初は,納税額相当分390万4700円,慰謝料50万円及び弁護士費用相当額93万0705円並びにこれらに対する遅延損害金を請求したところ,ほどなく,被上告人は,本件訴訟係属中である同15年4月10日に本件課税処分を取り消し,上告人に対し過誤納額392万6900円及び還付加算金額24万7500円を支払った。そこで,上告人は,本件訴訟の請求額を慰謝料50万円及び弁護士費用66万1005円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度まで減縮した。

 3 上記事実関係の下において,原審は,次のとおり判断して,上告人の弁護士費用相当額の損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却すべきものとした。
 上告人が本件課税処分について審査請求をしており,本件課税処分の取消しの訴えを提起することができるという事実関係の下では,違法な課税処分に基づいて徴収金を納付したことによる損失の補てんは,過誤納金の還付や還付加算金の制度によってするのを本則とするのであって,国家賠償法による損害賠償請求は,上記制度によっても償われない損害をてん補するものにすぎない。そうすると,上告人が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求訴訟の提起を余儀なくされたということはできないし,本件訴訟の提起は,本件課税処分が違法であることから通常予想されるものではない。したがって,本件課税処分が違法なものであることと上告人が本件訴訟の提起及び追行に係る弁護士費用を支出したこととの間に,相当因果関係を肯定することはできない。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 【要旨】前記事実関係の下において,上告人が本件訴訟を提起することが妨げられる理由はないというべきところ,本件訴訟の提起及び追行があったことによって本件課税処分が取り消され,過誤納金の還付等が行われて支払額の限度で上告人の損害が回復されたというべきであるから,本件訴訟の提起及び追行に係る弁護士費用のうち相当と認められる額の範囲内のものは,本件課税処分と相当因果関係のある損害と解すべきである。
 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,これと同旨をいう限度で理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,上記損害賠償請求が認容されるべき額等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。