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捜査機関が公道上のごみ集積所に不要物として排出されたごみを領置することの可否

 平成20年4月15日最高裁判所第二小法廷決定

裁判要旨    
1 捜査機関において被告人が強盗殺人等事件の犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在し,かつ,同事件の捜査に関して行われたビデオ撮影が,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上及び不特定多数の客が集まるパチンコ店内にいる被告人の容ぼう等を撮影したものであるなど判示の事実関係の下では,これらのビデオ撮影は,捜査活動として適法である。
2 捜査機関は,不要物として公道上のごみ集積所に排出されたごみについて,捜査の必要がある場合には,刑訴法221条によりこれを遺留物として領置することができる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/292/036292_hanrei.pdf

所論にかんがみ職権で判断する。
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,本件捜査経過等に係る事実関係は,以下のとおりである。

(1) 本件は,金品強取の目的で被害者を殺害して,キャッシュカード等を強取し,同カードを用いて現金自動預払機から多額の現金を窃取するなどした強盗殺人,窃盗,窃盗未遂の事案である。

(2) 平成14年11月,被害者が行方不明になったとしてその姉から警察に対し捜索願が出されたが,行方不明となった後に現金自動預払機により被害者の口座から多額の現金が引き出され,あるいは引き出されようとした際の防犯ビデオに写っていた人物が被害者とは別人であったことや,被害者宅から多量の血こんが発見されたことから,被害者が凶悪犯の被害に遭っている可能性があるとして捜査が進められた。

(3) その過程で,被告人が本件にかかわっている疑いが生じ,警察官は,前記防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を判断するため,被告人の容ぼう等をビデオ撮影することとし,同年12月ころ,被告人宅近くに停車した捜査車両の中から,あるいは付近に借りたマンションの部屋から,公道上を歩いている被告人をビデオカメラで撮影した。さらに,警察官は,前記防犯ビデオに写っていた人物がはめていた腕時計と被告人がはめている腕時計との同一性を確認するため,平成15年1月,被告人が遊技していたパチンコ店の店長に依頼し,店内の防犯カメラによって,あるいは警察官が小型カメラを用いて,店内の被告人をビデオ撮影した。

(4) また,警察官は,被告人及びその妻が自宅付近の公道上にあるごみ集積所に出したごみ袋を回収し,そのごみ袋の中身を警察署内において確認し,前記現金自動預払機の防犯ビデオに写っていた人物が着用していたものと類似するダウンベスト,腕時計等を発見し,これらを領置した。

(5) 前記(3)の各ビデオ撮影による画像が,防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を専門家が判断する際の資料とされ,その専門家作成の鑑定書等並びに前記ダウンベスト及び腕時計は,第1審において証拠として取り調べられた。

2 所論は,警察官による被告人に対する前記各ビデオ撮影は,十分な嫌疑がないにもかかわらず,被告人のプライバシーを侵害して行われた違法な捜査手続であり,また,前記ダウンベスト及び腕時計の各領置手続は,令状もなくその占有を取得し,プライバシーを侵害した違法な捜査手続であるから,前記鑑定書等には証拠能力がないのに,これらを証拠として採用した第1審の訴訟手続を是認した原判断は違法である旨主張する。

しかしながら,前記事実関係及び記録によれば,捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ,かつ,前記各ビデオ撮影は,強盗殺人等事件の捜査に関し,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり,いずれも,通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。
以上からすれば,これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべきである。
ダウンベスト等の領置手続についてみると,被告人及びその妻は,これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し,その占有を放棄していたものであって,排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,刑訴法221条により,これを遺留物として領置することができるというべきである。また,市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても,それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから,これを遺留物として領置することが妨げられるものではない。
したがって,前記各捜査手続が違法であることを理由とする所論は前提を欠き,原判断は正当として是認することができる。

刑事訴訟法

第二百二十一条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。