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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 権利能力のない社団であるXが建物の共有持分権を有することの確認を求める旨を訴状に記載して提起した訴訟

令和4年4月12日最高裁判所第三小法廷判決

判示事項    
権利能力のない社団であるXが建物の共有持分権を有することの確認を求める旨を訴状に記載して提起した訴訟において、控訴審が、Xの請求につき、上記共有持分権がXの構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨に出るものであるか否かについて釈明権を行使することなくこれを棄却したことに違法があるとされた事例

裁判要旨    
権利能力のない社団であるXがYに対して建物の共有持分権を有することの確認を求める旨を訴状に記載して提起した訴訟において、当事者双方は専らX及びYを含む3町内会の間で上記建物をその3町内会の共有とする旨の合意がされたか否かに関して主張し、Xが所有権等の主体となり得るか否かが問題とされることはなかったなど判示の事情の下においては、控訴審が、Xに対し、Xの請求につき、上記共有持分権がXの構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨に出るものであるか否かについて釈明権を行使することなく、上記共有持分権がX自体に帰属することの確認を求めるものであるとしてこれを棄却したことには、違法がある。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/095/091095_hanrei.pdf

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91095

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本件の第1審及び原審において、当事者双方は、専ら本件合意の存否に関して主張をし、これを立証の対象としてきたものであって、上告人が所有権等の主体となり得るか否かが問題とされることはなかった。権利能力のない社団がその名において取得した資産は、その構成員全員に総有的に帰属するものであるところ(最高裁昭和39年10月15日第一小法廷判決)、当事者双方とも上記判例と異なる見解に立っていたものとはうかがわれない。
そうすると、本件請求については、本件建物の共有持分権が上告人の構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨に出るものであると解する余地が十分にあり、原審は、上記共有持分権が上告人自体に帰属することの確認を求めるものであるとしてこれを直ちに棄却するのではなく、上告人に対し、本件請求が上記趣旨に出るものであるか否かについて釈明権を行使する必要があったといわなければならない。
したがって、原審が、上記のような措置をとることなく、本件請求は上記確認を求めるものであるとしてこれを棄却したことには、釈明権の行使を怠った違法がある。この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

以上によれば、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そこで、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。 

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社団の実体を有するが法人格を持たない団体を一般に権利能力のない社団という。

権利能力のない社団というためには,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要する。

判例は,権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属するとし,権利能力のない社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は,社団の総有財産だけがその責任財産となり,構成員各自は,取引の相手方に対し,直接には個人的債務ないし責任を負わないとしている(最三小判昭48.10.9)。

総有は,団体的拘束を受ける共同所有の形態であり,構成員は,個々の財産について持分権を有しておらず(脱退の際の分割請求権を否定した判例として最一小判昭32.11.14),構成員の持分権が認められない以上,構成員の個人債務の債権者は,権利能力のない社団の資産に強制執行することはできないとされる。

判例及び伝統的理論は,権利能力のない社団の資産について,総有という構成を用いて,実質的に社団法人が所有するのと同じ結論を導こうとしており,権利能力のない社団の資産は,実質的には社団の資産であり,構成員から独立した存在であると解している。

裁判実務においても,権利能力のない社団の構成員全員に総有的に帰属する権利義務に関しては,訴状や判決において,あたかも権利能力のない社団自身が当該権利義務を有しているかのような記載がされることが少なくない。

そうすると,権利能力のない社団の資産は,実質的にみれば,社団の資産とみてよく,Xの請求は,法的には正確性を欠くとはいえ,本件建物の共有持分権がXの構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨であると解する余地が十分にあるように思われる。

このように解するとして,Xが総有権確認請求訴訟を適法に提起・追行することができるか問題となる。具体的には,権利能力のない社団が,構成員全員に総有的に帰属する権利について訴訟上行使することのできる理論的根拠(当事者適格)が問題となる。

この点についての学説は,①固有適格構成(社団が民訴法29条により当該事件限りで権利能力が認められると考える。),②訴訟担当構成(社団が構成員全員に帰属する権利を訴訟担当者として代わりに行使していると考える。)の二つに大別される。

判例はこの点について立場を明らかにしたことはないが,最三小判平6.5.31は,権利能力のない社団に当たる入会団体は総有権確認請求訴訟の原告適格を有するとし,その確定判決の効力は構成員全員に対して及ぶとした。

いずれの見解に立つにせよ,Xがその名において本件建物について総有権確認請求訴訟を提起することは認められる。