元請企業につき下請企業の労働者に対する安全配慮義務が認められた事例
平成3年4月11日最高裁判所第一小法廷判決
下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり、元請企業の管理する設備工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであったなど原判示の事実関係の下においては、元請企業は、信義則上、労働者に対し安全配慮義務を負う。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62640
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/640/062640_hanrei.pdf
認定事実によれば、上告人の下請企業の労働者が上告人のD造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。そして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、上告人主張の免責事由は認められないとした点、その他所論の点に関する原審の判断も正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
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原審判決の認定判断
下請会社
神戸造船所では、下請会社(個人企業も含む)が出入し、専らあるいは主として神戸造船所の下請をしており、これらの企業は、他の企業の下請をしたり、あるいは自ら元請をすることはほとんどなかった。
作業現場、作業内容
下請会社の従業員の作業場所はほとんど神戸造船所に限定されていた。
下請の労働者は、ごく一部の工具類を除き、被告所有の機械、工具類を使用して作業しており、被告の本工とほとんど同一の作業をしている。
指揮命令
下請工が本工と一体となって作業をする場合には、被告の職制が指揮監督をする。
下請工が本工と別個の作業をする場合には、被告は、下請企業のボーシンと称する管理担当者を通じて指揮監督をすることもあるが、被告が下請工を直接指揮監督することもまれではない。
以上の事実関係の下、原審判決は、神戸造船所の下請工は、事実上被告から作業場所、工具等の提供を受け、事実上被告の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も本工と同一であったりするのだから、被告は、下請工に対しても、安全配慮義務を負担するものというべきである、とした。
上告理由は、元請企業に対する直接の服従義務が下請労働者にない以上、一般的な注意義務以上に特別な義務として、安全配慮義務を負担させることはできないとする。
本最高裁判決は、原審判決の前記認定事実を取り上げ、これらの事実関係の下では、雇傭契約に準ずる法律関係に基づく安全配慮義務を負うとした原審判決の判断を正当とし、上告理由を排斥した。