不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金を民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることの可否
令和4年1月18日最高裁判所第三小法廷判決
裁判要旨
不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできない。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90853
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/853/090853_hanrei.pdf
民法405条は,いわゆる重利の特約がされていない場合においても,一定の要件の下に,債権者の一方的な意思表示により利息を元本に組み入れることができるものとしている。これは,債務者において著しく利息の支払を延滞しているにもかかわらず,その延滞利息に対して利息を付すことができないとすれば,債権者は,利息を使用することができないため少なからぬ損害を受けることになることから,利息の支払の延滞に対して特に債権者の保護を図る趣旨に出たものと解される。そして,遅延損害金であっても,貸金債務の履行遅滞により生ずるものについては,その性質等に照らし,上記の趣旨が当てはまるということができる(大審院昭和17年2月4日判決)。
これに対し,不法行為に基づく損害賠償債務は,貸金債務とは異なり,債務者にとって履行すべき債務の額が定かではないことが少なくないから,債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって,一概に債務者を責めることはできない。また,不法行為に基づく損害賠償債務については,何らの催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決),上記遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。そうすると,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金については,民法405条の上記趣旨は妥当しないというべきである。
したがって,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないと解するのが相当である。
以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。
(利息の元本への組入れ)
第405条
利息の支払が1年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。