最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合に,その弁済が上記部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての「執行判決」をすることの可否

令和3年5月25日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが上記部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90323

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/323/090323_hanrei.pdf

1 本件は,被上告人らが,上告人に対して損害賠償を命じた米国カリフォルニア州の裁判所の判決について,民事執行法24条に基づいて提起した執行判決を求める訴えである。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
被上告人ホンダヤインコーポレイテッド(以下「被上告人会社」という。)は,被上告人X1及び同X2によって設立されたカリフォルニア州所在の会社である。
被上告人らは,平成25年(2013年)3月,上告人が被上告人会社のビジネスモデル,企業秘密等を領得したなどと主張して,上告人外数名に対して損害賠償を求める訴えをカリフォルニア州オレンジ郡上位裁判所(以下「本件外国裁判所」という。)に提起した。
本件外国裁判所は,平成27年(2015年)3月20日,上記訴えについて,上告人に対し,補償的損害賠償として18万4990米国ドル及び訴訟費用として519.50米国ドル並びにこれらに対する年10%の割合による利息を被上告人らに支払うよう命ずるとともに,見せしめと制裁のためにカリフォルニア州民法典の定める懲罰的損害賠償として9万米国ドル及びこれに対する上記割合による利息を被上告人らに支払うよう命ずる判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡し,本件外国判決は,その後確定した。 

本件外国裁判所は,同年5月,被上告人らの申立てにより,本件外国判決に基づく強制執行として,上告人がその関連会社に対して有する債権等を被上告人らに転付する旨の命令(以下「本件転付命令」という。)を発付した。
被上告人らは,同年12月,本件転付命令に基づき,13万4873.96米国ドルの弁済(以下「本件弁済」という。)を受けた。なお,被上告人らは,本件弁済が本件外国判決に係る債権の元本に充当されたものとして,上記元本からこれを控除することを認めている。
3 原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断し,本件外国判決のうち上告人に対して14万0635.54米国ドル及びこれに対する本件外国判決の言渡し日の翌日である平成27年3月21日から支払済みまでの利息の支払を命じた部分についての執行判決を求める被上告人らの請求を認容した。
本件外国判決のうち懲罰的損害賠償として9万米国ドル及びこれに対する利息の支払を命じた部分(以下「本件懲罰的損害賠償部分」という。)は,民訴法118条3号にいう公の秩序に反するものであるが,カリフォルニア州において本件懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在することまで否定されるものではないから,本件外国裁判所の強制執行手続においてされた本件弁済は,同州においては,上記債権を含む本件外国判決に係る債権の全体に充当されたとみるほかない。そして,本件外国判決の認容額(27万5509.50米国ドル)から本件弁済の額を差し引いた残額(14万0635.54米国ドル)は,本件外国判決のうち本件懲罰的損害賠償部分を除く部分に係る債権の額(18万5509.50米国ドル)を超えないから,上記残額の債権の行使を認めても公の秩序に反しない。したがって,本件外国判決のうち上記残額に係る部分についての執行判決をすることができる。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分(以下「懲罰的損害賠償部分」という。)が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできないというべきである。
なぜなら,上記の場合,懲罰的損害賠償部分は我が国において効力を有しないのであり,そうである以上,上記弁済の効力を判断するに当たり懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在するとみることはできず,上記弁済が懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されることはないというべきであって,上記弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これと別異に解すべき理由はないからである。 

前記事実関係によれば,本件弁済は,本件外国判決に係る債権につき,本件外国裁判所の強制執行手続においてされたものであるが,本件懲罰的損害賠償部分は,見せしめと制裁のためにカリフォルニア州民法典の定める懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じたものであり,民訴法118条3号の要件を具備しないというべきであるから(最高裁平成9年7月11日第二小法廷判決参照),本件弁済が本件懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして本件外国判決についての執行判決をすることはできない。そして,本件外国判決のうち本件懲罰的損害賠償部分を除く部分は同条各号に掲げる要件を具備すると認められるから,本件外国判決については,本件弁済により本件外国判決のうち本件懲罰的損害賠償部分を除く部分に係る債権が本件弁済の額の限度で消滅したものとして,その残額である5万0635.54米国ドル及びこれに対する利息の支払を命じた部分に限り執行判決をすべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,主文第1項及び第2項は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,本件外国判決のうち5万0635.54米国ドル及びこれに対する平成27年3月21日から支払済みまで年10%の割合による利息の支払を命じた部分について執行判決を求める限度で被上告人らの請求を認容した第1審判決は正当であるから,被上告人らの控訴を棄却すべきである。

第2 上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てについて
上告人が上記申立ての理由として主張する事実関係は,別紙「仮執行の原状回復及び損害賠償を命ずる裁判の申立書」第2の1記載のとおりであり,被上告人らは,これを争わない。上記事実関係によれば,上告人は,令和元年10月31日,被上告人らに対し,原判決に付された仮執行の宣言に基づき,2242万4347円を給付したものというべきである。そして,原判決中主文第1項及び第2項が破棄を免れないことは前記説示のとおりであるから,原判決に付された仮執行の宣言は,その限度でその効力を失うことになる。そうすると,被上告人らに対し,1435万0507円(2242万4347円から,5万0635.54米国ドル及びこれに対する平成27年3月21日から令和元年10月31日まで年10%の割合による利息2万3361.71米国ドルの合計7万3997.25米国ドルを同日の外国為替相場により邦貨に換算した額である807万3840円を差し引いた額)及びこれに対する給付の日の翌日である同年11月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の申立ては,正当として認容すべきであり,その余の部分の申立ては,理由がないからこれを棄却すべきである。なお,上告人は,米国通貨による支払を求めているが,上告人が邦貨により給付をしたことからすれば,邦貨による支払を被上告人らに命ずるのが相当である。