会社と取締役との取引につき取締役会の承認を要しないとされた事例
裁判要旨
会社と取締役間に商法二六五条所定の取引がなされる場合でも、右取締役が会社の全株式を所有し、会社の営業が実質上右取締役の個人経営のものにすぎないときは、右取引によつて両者の間に実質的に利害相反する関係を生ずるものでなく、右取引については、同条所定の取締役会の承認を必要としない。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54127
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/127/054127_hanrei.pdf
原審の確定した事実によれば、本件売買契約は、昭和三三年九月二九日締結されたものであるが、被上告会社は、元来上告人Aの個人営業であつたものを株式会社組織としたものであつて、右売買契約締結当時においては、上告人Aがその株式全部を所有していたものであるが、同会社はその後営業不振となり、そのため、昭和三七年に上告人Aは、当時所有していた同会社の四五パーセントの株式全部を手放して代表取締役を辞任し、全く被上告会社と無関係となり、その後、昭和三八年三月九日被上告会社取締役会は、右売買契約を事後承認のうえ追認したというものである。
原審の確定した右事実関係のもとにおいては、本件売買契約締結当時には、被上告会社は株式会社の形態をとつているとはいえ、その営業は実質上、上告人Aの個人経営のものにすぎないから、被上告会社の利害得失は実質的には上告人Aの利害得失となるものであり、その間に利害相反する関係はない。したがつて、上告人Aがその所有の本件土地を被上告会社に売り渡すことについて、両者の間に実質的に利害相反の関係を生じるものではないというべきである。
ところで、商法二六五条が、会社と取締役との間の同条所定の取引について取締役会の承認を要するものとしている趣旨は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が行なわれることを防止するにあるのであるから、会社と取締役間に商法二六五条所定の取引がなされた場合でも、前段説示のように、実質的に会社と当該取締役との間に利害相反する関係がないときには、同条所定の取締役会の承認は必要ないものと解するのが相当である。したがつて、被上告会社とその取締役であつた上告人Aとの間になされた本件売買契約は、被上告会社取締役会の承認の有無によつてその効力が左右されるべきものではないから、原審の確定した取締役会の事後承認の効力の有無を争う論旨は、帰するところ原審のした余論に対する攻撃にすぎず、採用することができない。