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相続が開始して遺産分割未了の間に第2次の相続が開始した場合において第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときの持戻しの要否

平成17年10月11日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
相続が開始して遺産分割未了の間に相続人が死亡した場合において,第2次被相続人が取得した第1次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は,実体上の権利であって第2次被相続人の遺産として遺産分割の対象となり,第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときは,その持戻しをして具体的相続分を算定しなければならない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/436/052436_hanrei.pdf

 

 1 本件は,先に死亡した甲の遺産の分割申立て事件とその後に死亡した同人の妻乙の遺産の分割申立て事件とが併合された事件である。

 2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。

 (1) 抗告人と相手方らは,いずれも甲と乙の間の子である。甲は平成7年12月7日に,乙は平成10年4月10日に,それぞれ死亡した。甲の法定相続人は,乙,抗告人及び相手方らであり,乙の法定相続人は,抗告人及び相手方らである。

 (2) 被相続人甲に係る遺産分割の対象となる遺産は,原決定別表1の番号1~5記載の不動産並びに同別表の番号6及び7記載の現金である。抗告人及び相手方Y2には,甲との関係で民法903条1項の特別受益がある。

 (3) 被相続人乙は,原決定別表2の番号12及び13記載の不動産を所有していたが,遺言公正証書により,これを相手方Xに相続させる旨の遺言をした。同相手方は,乙の死亡により,同遺言に基づき,上記不動産を単独で取得した。乙は,上記不動産以外に遺産分割の対象となる固有の財産を有していなかった。

 (4) 抗告人及び相手方Xは,相手方Y2は乙から特別受益に当たる贈与を受けた旨の主張をしている。

 3 原審は,次のとおり判示して,乙に係る遺産の分割申立ては不適法であるとしてこれを却下し,上記2(2)記載の甲の遺産について,甲との関係における特別受益のみを持ち戻して抗告人及び相手方らの各具体的相続分を算定して,これを分割した。 

 (1) 乙には,その相続開始時において,遺産分割の対象となる固有の財産はなく,甲の遺産に対する乙の相続分は,甲の遺産を取得することができるという抽象的な法的地位であって,遺産分割の対象となり得る具体的な財産権ではない。そうすると,審判によって分割すべき乙の遺産は存在しないから,乙に係る遺産の分割申立ては不適法である。

 (2) 上記乙の相続分は,上記(1)に記載した内容のものであるから,遺産分割手続を要せずして,乙の相続人である抗告人及び相手方らに民法900条所定の割合に応じて当然に承継される。そして,遺産分割手続によらない承継には民法903条は適用されず,また,乙にはその相続開始時に遺産分割の対象となる固有の財産もないから,相手方Y2について主張されている乙からの特別受益を考慮する場面はない。したがって,甲の遺産については,甲との関係における抗告人及び相手方Y2の各特別受益を持ち戻して算定される抗告人及び相手方らの各具体的相続分に基づいて分割することとなる。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 遺産は,相続人が数人ある場合において,それが当然に分割されるものでないときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属し,この共有の性質は,基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものではない(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決,最高裁昭和50年11月7日第二小法廷判決,最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決)。そうすると,共同相続人が取得する遺産の共有持分権は,実体上の権利であって遺産分割の対象となるというべきである。 

【要旨】本件における甲及び乙の各相続の経緯は,甲が死亡してその相続が開始し,次いで,甲の遺産の分割が未了の間に甲の相続人でもある乙が死亡してその相続が開始したというものである。そうすると,乙は,甲の相続の開始と同時に,甲の遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており,これは乙の遺産を構成するものであるから,これを乙の共同相続人である抗告人及び相手方らに分属させるには,遺産分割手続を経る必要があり,共同相続人の中に乙から特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは,その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない。

以上と異なり,審判によって分割すべき乙の遺産はなく,乙との関係における特別受益を考慮する場面はないとした原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。

論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。