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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

外国国家が発行した円建て債券に係る償還等請求訴訟につき,当該債券の管理会社が任意的訴訟担当の要件を満たすものとして原告適格を有するとされた事例

平成28年6月2日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨       
外国国家Yが発行したいわゆるソブリン債である円建て債券に係る償還等請求訴訟について,当該債券の管理会社であるXらは,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,当該債券の債権者Aらのための任意的訴訟担当の要件を満たし,原告適格を有する。
⑴ XらとYとの間において,Xらが債券の管理会社として,Aらのために当該債券に基づく弁済を受け,又は債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する旨の条項を含む管理委託契約が締結された。
⑵ 上記⑴の授権に係る条項は,Xら,Y及びAらの間の契約関係を規律する「債券の要項」の内容を構成し,Aらに交付される目論見書等にも記載されていた。
⑶ 当該債券は多数の一般公衆に対して発行される点で社債に類似するところ,上記⑴の授権に係る条項を設けるなどしてXらに訴訟追行権を認める仕組みは,社債に関する商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)の規定に倣ったものである。
⑷ Xらは,いずれも銀行であって銀行法に基づく規制や監督に服するとともに,上記⑴の管理委託契約上,Aらに対して公平誠実義務や善管注意義務を負うものとされている。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85927

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/927/085927_hanrei.pdf

1 本件は,いずれも銀行である上告人らが,外国国家である被上告人が発行したいわゆるソブリン債である円建て債券を保有する債権者らから訴訟追行権を授与された訴訟担当者であるなどと主張して,被上告人に対し,当該債券の償還及び約定利息等の支払を求める事案である(以下において,「債券」の語を当該債券に表示されるべき権利の意味で用いることがある。)。 

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任意的訴訟担当については,本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があることを前提として,弁護士代理の原則(民訴法54条1項本文)を回避し,又は訴訟信託の禁止(信託法10条)を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性がある場合には許容することができると解される(最高裁昭和45年11月11日大法廷判決)。
前記事実関係によれば,被上告人と上告人らとの間では,上告人らが債券の管理会社として,本件債券等保有者のために本件債券に基づく弁済を受け,又は債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する旨の本件授権条項を含む本件管理委託契約が締結されており,これは第三者である本件債券等保有者のためにする契約であると解される。そして,本件授権条項は,被上告人,上告人ら及び本件債券等保有者の間の契約関係を規律する本件要項の内容を構成し,本件債券等保有者に交付される目論見書等にも記載されていた。さらに,後記のとおり社債に類似した本件債券の性質に鑑みれば,本件授権条項の内容は,本件債券等保有者の合理的意思にもかなうものである。そうすると,本件債券等保有者は,本件債券の購入に伴い,本件債券に係る償還等請求訴訟を提起することも含む本件債券の管理を上告人らに委託することについて受益の意思表示をしたものであって,上告人らに対し本件訴訟について訴訟追行権を授与したものと認めるのが相当である。
そして,本件債券は,多数の一般公衆に対して発行されるものであるから,発行体が元利金の支払を怠った場合に本件債券等保有者が自ら適切に権利を行使することは合理的に期待できない。本件債券は,外国国家が発行したソブリン債であり,社債に関する法令の規定が適用されないが,上記の点において,本件債券は社債に類似するところ,その発行当時,社債については,一般公衆である社債権者を保護する目的で,社債権者のために社債を管理する社債管理会社の設置が原則として強制されていた(旧商法297条)。そして,社債管理会社は,社債権者のために弁済を受け,又は債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有することとされていた(旧商法309条1項)。そこで,上告人ら及び被上告人の合意により,本件債券について社債管理会社に類した債券の管理会社を設置し,本件債券と類似する多くの円建てのソブリン債の場合と同様に,本件要項に旧商法309条1項の規定に倣った本件授権条項を設けるなどして,上告人らに対して本件債券についての実体上の管理権のみならず訴訟追行権をも認める仕組みが構築されたものである。
以上に加え,上告人らはいずれも銀行であって,銀行法に基づく規制や監督に服すること,上告人らは,本件管理委託契約上,本件債券等保有者に対して公平誠実義務や善管注意義務を負うものとされていることからすると,上告人らと本件債券等保有者との間に抽象的には利益相反関係が生ずる可能性があることを考慮してもなお,上告人らにおいて本件債券等保有者のために訴訟追行権を適切に行使することを期待することができる。
したがって,上告人らに本件訴訟についての訴訟追行権を認めることは,弁護士代理の原則を回避し,又は訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性があるというべきである。
以上によれば,上告人らは,本件訴訟について本件債券等保有者のための任意的訴訟担当の要件を満たし,原告適格を有するものというべきである。 

以上と異なる見解の下に,本件訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消し,更に審理を尽くさせるため,本件を第1審に差し戻すべきである。