将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものとされた事例
平成19年5月29日最高裁判所第三小法廷判決
裁判要旨
飛行場において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,判決言渡日までの分についても,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない。
(補足意見及び反対意見がある。)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=34710
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/710/034710_hanrei.pdf
(1) 継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である。
そして,飛行場等において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,将来それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく,かつ,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであって,このような請求権が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものであることは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決,最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決)。
(2) したがって,横田飛行場において離着陸する米軍の航空機の発する騒音等により精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする被上告人らの上告人に対する損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものであるから,これを認容する余地はないものというべきである。
5 以上によれば,被上告人らの本件訴えのうち原審の口頭弁論終結の日の翌日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る部分は,権利保護の要件を欠くものというべきであって,被上告人らの上記損害賠償請求を原判決言渡日までの期間について認容した原判決には,訴訟要件に関する法令の解釈の誤りがあり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり,原判決中上記将来の損害の賠償請求を認容した部分は破棄を免れず,上記部分に係る訴えを却下した第1審判決は相当であるから,この部分についての被上告人らの控訴を棄却すべきである。
なお,被上告人らの本件訴えのうち将来生ずべき損害の賠償請求に係る部分は,上記のとおり不適法でその不備を補正することができないものであるから,口頭弁論を経ないで判決をすることとする(最高裁平成14年12月17日第三小法廷判決)。
よって,裁判官那須弘平,同田原睦夫の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。