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共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,遺産確認の訴えの当事者適格を有しない。

平成26年2月14日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,遺産確認の訴えの当事者適格を有しない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/947/083947_hanrei.pdf

 1 本件は,亡Aの共同相続人(代襲相続人又は共同相続人の権利義務を相続した者を含む。)である被上告人らが,同じくAの共同相続人である上告人らとの間で第1審判決別紙物件目録記載の各土地建物(「本件不動産」)がAの遺産であることの確認を求める事件(「第1事件」)と,上告人Y1が,同物件目録記載11の建物の一部を占有している被上告人X1に対し,所有権に基づき,上記占有部分の明渡し等を求める事件(「第2事件」)が併合審理された訴訟である。なお,上告人Y1,同Y2及び同Y3は原審口頭弁論終結後に死亡した亡Bの,被上告人X2,同X3,同X4及び同X5は同じく原審口頭弁論終結後に死亡した亡Cの各地位をそれぞれ承継した。

 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) Aは,本件不動産を所有していたが,昭和28年1月26日に死亡した。

 (2) Aの共同相続人である被上告人X1,C,被上告人X6及び同X7(「原告ら」)は,同じくAの共同相続人である亡D(第1審係属中に死亡し,上告人Y4がその地位を承継した。),B,上告人Y1,同Y2及び同Y3(「被告ら」)のほか,その余のAの共同相続人であるE,F,G及びH(「Eら」)を被告として第1事件の訴えを提起した。第1事件には,第2事件が併合された。

 (3) 第1事件の係属後,Eらが自己の相続分の全部をそれぞれ他の共同相続人に譲渡していたことが明らかになったため,原告らは,Eらに対する訴えを取り下げる手続をした。

 3 上記事実関係の下で,第1審は,第1事件につき,原告らの訴えの取下げによりEらが当事者ではなくなったことを前提に,原告らの請求を棄却する旨の判決をし,第2事件につき,上告人Y1の請求を棄却する旨の判決をした。

これに対し,原審は,次のとおり判断して,第1審判決を取り消し,被告らに関する部分につき本件を第1審に差し戻した。

固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの係属中にした共同被告に対する訴えの取下げは効力を生じないと解されるところ,自己の相続分の全部を譲渡したEらも共同相続人として遺産確認の訴えの当事者適格を失うものではないから,第1事件につき,Eらに対する訴えの取下げが効力を生じないことを看過してされた第1審の訴訟手続には違法がある。また,第2事件は,第1事件と整合的・統一的に解決すべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 遺産確認の訴えは,その確定判決により特定の財産が遺産分割の対象である財産であるか否かを既判力をもって確定し,これに続く遺産分割審判の手続等において,当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争の解決に資することを目的とする訴えであり,そのため,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解されているものである(最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決,最高裁平成元年3月28日第三小法廷判決)。

しかし,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり,遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできないのであるから,その者との間で遺産分割の前提問題である当該財産の遺産帰属性を確定すべき必要性はないというべきである。そうすると,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと解するのが相当である。

 (2) これを本件についてみると,Eらは,いずれも自己の相続分の全部を譲渡しており,第1事件の訴えの当事者適格を有しないことになるから,原告らのEらに対する訴えの取下げは有効にされたことになる。

 5 以上と異なり第1事件につき第1審の訴訟手続には違法があるとし,また,第2事件につき本案の審理をせず第1事件と整合的・統一的に解決すべきであるとして,第1審判決を取り消した原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本案の審理をさせるため,原審に差し戻すのが相当である。