相続財産分与の審判前に特別縁故者に当たると主張する者が提起した遺言無効確認の訴えと訴えの利益の有無
平成6年10月13日最高裁判所第一小法廷判決
裁判要旨
民法九五八条の三第一項の規定による相続財産の分与の審判前に特別縁故者に当たると主張する者が提起した遺言無効確認の訴えは、訴えの利益を欠く。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62696
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/696/062696_hanrei.pdf
1 本件記録によれば、被上告人B1、同B2(「被上告人B1ら」)の本件訴えは、亡Dの昭和六〇年八月一四日付けの自筆証書遺言(「本件遺言」)が意思能力を欠いた状態で作成されたものであるとして、本件遺言に受遺者と記載された上告人らに対し、その無効確認を求めるものであるが、原審の確定した事実関係によると、被上告人B1はDのいとこ(四親等の血族)、被上告人B2は被上告人B1の妻であり、Dには相続人のあることが明らかでない、というのである。
2 原審は、右事実関係の下において、被上告人B1らは民法九五八条の三第一項所定の特別縁故者に当たり、本件遺言の無効確認を求める原告適格があると判断した。
3 しかし、原審の右判断は是認することができない。
けだし、本件遺言が無効である場合に、被上告人B1らが民法九五八条の三第一項所定の特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性があるとしても、右の特別縁故者として相続財産の分与を受ける権利は、家庭裁判所における審判によって形成される権利にすぎず、被上告人B1らは、右の審判前に相続財産に対し私法上の権利を有するものではなく、本件遺言の無効確認を求める法律上の利益を有するとはいえないからである。
そうすると、被上告人B1らの本件訴えは不適法であるから、これを適法として本案の判断をし、その請求を認容すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。右の違法をいう論旨は理由があるから、原判決中の被上告人B1らの請求に関する部分を破棄し、右訴えにつき本案の判決をした第一審判決を取り消した上、右訴えを却下することとする。