最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

遺言無効確認の訴の適否

昭和47年2月15日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
遺言無効確認の訴は、その遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しない.ことの確認を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求める法律上の利益を有するときは、適法と解すべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/924/051924_hanrei.pdf

本件記録によれば、上告人らは、訴外亡Dが昭和三五年九月三〇日自筆証書によつてなした遺言は無効であることを確認する旨の判決を求め、その請求原因として述べるところは、右Dは昭和三七年二月二一日死亡し、上告人らおよび被上告人らが同人を共同相続したものであるところ、Dは昭和三五年九月三〇日第一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し、昭和三七年四月二日大分家庭裁判所の検認をえたものであるが、右遺言は、Dがその全財産を共同相続人の一人にのみ与えようとするものであつて、家族制度、家督相続制を廃止した憲法二四条に違背し、かつ、その一人が誰であるかは明らかでなく、権利関係が不明確であるから無効である、というものである。これに対し、被上告人B1を除くその余の被上告人らは、本訴の確認の利益を争うとともに、本件遺言によりDの全財産の遺贈を受けた者は被上告人B2であることが明らかであるから、本件遺言は有効である旨抗争したものである。

第一審は、遺言は過去の法律行為であるから、その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして、本訴を却下し、右第一審判決に対して上告人らより控訴したが、原審も、右第一審判決とほぼ同様の見解のもとに、本訴を不適法として却下すべき旨判断し、上告人らの控訴を棄却したものである。

よつて按ずるに、いわゆる遺言無効確認の訴は、遺言が無効であることを確認するとの請求の趣旨のもとに提起されるから、形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが、請求の趣旨がかかる形式をとつていても、遺言が有効であるとすれば、それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは、適法として許容されうるものと解するのが相当である。けだし、右の如き場合には、請求の趣旨を、あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはなく、また、判決において、端的に、当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて、確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかだからである。

以上説示したところによれば、前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法というべきである。それゆえ、これと異なる見解のもとに、本訴を不適法として却下した原審ならびに第一審の判断は、民訴法の解釈を誤るものであり、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、原判決は破棄を免れず、第一審判決を取り消し、さらに本案について審理させるため、本件を第一審に差し戻すのが相当である。