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 縁組が無効であるとの主張と離縁無効確認の訴えの利益

昭和62年7月17日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
養子縁組の当事者の一方の提起した離縁無効確認の訴えは、その縁組が無効であるとの主張が認められた場合であつても、訴えの利益を失わない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/198/055198_hanrei.pdf

 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 昭和二七年八月二一日、被上告人を亡D・亡E夫婦(「亡F」)の養子とする旨の縁組の届出がされた(「第一回縁組」)。

 2 昭和三二年五月一五日、亡Fと被上告人間の協議離縁の届出がされた(「第一回離縁」)。

 3 昭和三三年八月二九日、被上告人を亡Fの養子とする旨の縁組の届出がされた(「第二回縁組」)。

 4 昭和四一年一月八日、亡Fと被上告人間の協議離縁の届出がされた(「第二回離縁」)。

二 被上告人の上告人(検察官)に対する本訴請求は、戸籍上、昭和四一年一月八日の協議離縁の届出により被上告人と亡Fとが第二回離縁をしたことになつているが、被上告人は右届出をしていないので、第二回離縁が無効であることの確認を求める、というのである。

これに対し、上告補助参加人らの主張は、第二回離縁の前提となる第二回縁組が被上告人不知の間にされたもので無効であるから、第二回離縁の無効を論ずる必要はないなどというのであるが、第二回縁組につき右参加人らから右縁組無効確認の訴えは提起されていない。

第一審は、第二回縁組が無効であると認定したうえで、第二回離縁の前提となる第二回縁組が無効である以上、右離縁が無効であるからといつて養親子関係が有効に存続するわけでもないから、被上告人は第二回離縁の無効を確認する法的利益がないとして、被上告人の本件訴えを却下した。原審は、第一回離縁及び第二回縁組がいずれも無効であると認定判断したうえで、第二回離縁が被上告人主張のように無効であれば、被上告人と亡Fとの間の第一回縁組に基づく養親子関係が有効に存続する筋合となるから、被上告人は第二回離縁の無効確認を求める法的利益があるとして、第一審判決を取り消し、本件を第一審に差し戻した。

 三 思うに、戸籍上離縁の記載がされている養子縁組の当事者の一方は、もし右戸籍の記載が真実と異なる場合には、離縁無効を確認する確定判決を得て戸籍法一一六条により右戸籍の記載を訂正する利益があるというべきであり、当該離縁無効確認の訴えにおいて、相手方(本件におけるような補助参加人を含む。)から縁組が無効であるとの主張がされ、仮にこの主張が認められる場合であつても、離縁無効確認の訴えの利益は失われるものではないと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、被上告人と亡Fとの間の第二回離縁の届出がされ、その旨の戸籍の記載がされているというのであるから、右戸籍の記載が真実と異なる場合には、被上告人は、離縁無効を確認する確定判決を得て右戸籍を訂正する利益を有するものであり、仮に第二回縁組が無効であるとの補助参加人らの主張が認められる場合であつても、離縁無効確認の訴えの利益は失われないものというべきである。

 四 そうすると、被上告人において第二回離縁の無効確認を求める法律上の利益を有するとした原審の判断は、結論において是認することができ、所論引用の判例に抵触するものではない。

論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない点につき原判決を非難するか、又は原審の認定しない事実若しくは独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。