最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

養親の相続財産全部の包括受遺者が提起する養子縁組の無効の訴えと訴えの利益の有無

平成31年3月5日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
養子縁組の無効の訴えを提起する者は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/460/088460_hanrei.pdf

1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 亡Bを養親となる者とし,亡Cを養子となる者とする養子縁組届に係る届書が,平成22年10月▲▲日,徳島県a郡b町長に提出された。なお,亡Bは亡C及びその実姉の叔父の妻である。また,被上告人は当該実姉の夫であり,上告補助参加人は亡Cの妻である。

(2) 被上告人は,平成25年12月に死亡した亡Bの平成22年7月11日付けの自筆証書遺言により,その相続財産全部の包括遺贈を受けた。

(3) 被上告人は,平成28年1月,亡Cから遺留分減殺請求訴訟を提起された。
亡Cが平成29年10月に死亡したため,上告補助参加人は,上記訴訟を承継した。

2 本件は,被上告人が,検察官に対し,本件養子縁組の無効確認を求める事案である。

3 原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断し,被上告人が本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有しないとして本件訴えを却下した第1審判決を取り消して,本件を第1審に差し戻した。
養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は,養親の相続人と同一の権利義務を有し,養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどに照らせば,養親の相続に関する法的地位を有するものといえ,養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者に当たる。そうすると,被上告人は,亡Bの相続財産全部の包括遺贈を受けた者であるから,本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有する。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 養子縁組の無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが,当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は上記訴えにつき法律上の利益を有しないと解される(最高裁昭和63年3月1日第三小法廷判決)。

そして,遺贈は,遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示であるから,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は,養子から遺留分減殺請求を受けたとしても,当該養子縁組が無効であることにより自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない。

したがって,養子縁組の無効の訴えを提起する者は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえないと解するのが相当である。

(2) そして,被上告人は,亡Bの相続財産全部の包括遺贈を受けたものの,亡Bとの間に親族関係がなく,亡Cとの間に義兄(2親等の姻族)という身分関係があるにすぎないから,本件養子縁組の無効により自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることはなく,本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有しないというべきである。

5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の訴えは不適法であり,これを却下した第1審判決は相当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。