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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

3番所有権抹消登記等請求事件

令和5年5月19日最高裁判所第二小法廷判決

判示事項    
1 共同相続人の相続分を指定する旨の遺言がされた場合における、遺言執行者と不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格(消極)
2 相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合における、遺言執行者と不動産の所有権移転登記の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格(積極)
3 複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属する

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/085/092085_hanrei.pdf

第1 事案の概要
1 本件は、Aの遺言執行者である被上告人が、原判決別紙物件目録記載の土地(「本件土地」)はAの相続財産であり、本件土地につきAの遺言の内容に反する登記がされているなどと主張して、本件土地につき原判決別紙登記目録記載の所有権移転登記(「本件登記」)を受けた上告人らに対し、本件登記の抹消登記手続等を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
Bは、平成5年11月、本件土地を売買により取得し、その旨の所有権移転登記を受けた。
Bは、平成20年6月に死亡した。Bの相続人は、妻であるA並びに同人とBとの間の子である上告補助参加人(「参加人」)及びCであったが、Cが相続の放棄をしたため、本件土地は、A及び参加人が法定相続分である各2分の1の割合で共同相続した。

Aは、平成21年7月、Aの一切の財産を、Cに2分の1の割合で相続させるとともに、Cの子であるDに3分の1の割合で遺贈し、参加人の子であるEに6分の1の割合で遺贈するとの公正証書遺言(「本件遺言」)をした。

参加人は、平成23年1月、Bの相続に関してAと参加人との間で参加人が本件土地を取得すること等を内容とする遺産分割協議が成立した旨の遺産分割協議書を利用して、本件土地につき、平成20年6月相続を原因とする参加人に対する所有権移転登記をした。しかし、上記遺産分割協議は、Aの意思に基づかずにされた無効なものであった。 

Aは、平成23年2月に死亡した。Aの相続人は、Aの子である参加人及びCであった。
Eは、Aの死亡後、本件遺言に係る遺贈を放棄した。

被上告人は、平成23年4月、東京家庭裁判所により、本件遺言の遺言執行者に選任された。
参加人は、平成23年6月、上告人らとの間で、本件土地を上告人らに売り渡す旨の売買契約(「本件売買契約」)を締結した。そして、同年8月、本件土地につき、同月売買を原因として、上告人Y1の持分を100分の23、上告人Y2の持分を100分の42、上告人Y3の持分を100分の35とする所有権移転登記(本件登記)がされた。

3 原審は、上記事実関係の下において、被上告人は、本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するとした上で、本件土地の持分2分の1は、Aの相続財産であり、本件売買契約に係る上記持分2分の1(「本件相続持分」)の処分行為は、平成30年法律第72号(令和元年7月1日施行。以下「改正法」という。)による改正前の民法1013条により無効であるとして、本件登記のうち本件相続持分に関する部分(上告人Y1の持分200分の23、上告人Y2の持分200分の42及び上告人Y3の持分200分の35に関する部分)の一部抹消(更正)登記手続を求める限度において、被上告人の抹消登記手続請求を認容し、その余を棄却した。

第2 上告代理人の上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について

1 原審の前記第1の3の判断中、本件登記の抹消登記手続請求のうち、本件相続持分の一部であって後記 のとおりDが受けるべき持分6分の1に関する部分(上告人Y1の持分600分の23、上告人Y2の持分600分の42及び上告人Y3の持分600分の35に関する部分)に係る訴えについて、被上告人が原告適格を有するとして被上告人の請求を認容した点は、是認することができるが、上記持分6分の1を除くその余の本件相続持分(本件土地の持分3分の1)に関する部分に係る訴えについてまで、被上告人が原告適格を有するとした点は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言の執行に必要な場合には、遺言の内容に反する不動産登記の抹消登記手続を求める訴えを提起することができる(最高裁昭和51年7月19日第二小法廷判決、最高裁平成11年12月16日第一小法廷判決)。

本件においては、改正法の施行日前に開始したAの相続に関し、本件遺言の遺言執行者である被上告人が本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するか否かが問題となるところ、本件遺言は、

Aの一切の財産をCに2分の1の割合で相続させるとの部分(「本件遺言部分1」)、

上記財産をDに3分の1の割合で遺贈するとの部分(「本件遺言部分2」)及び

上記財産をEに6分の1の割合で遺贈するとの部分(「本件遺言部分3」

から成っている。そして、このような本件遺言の内容等に照らすと、その趣旨は、Aの相続財産の3分の1をDに、6分の1をEにそれぞれ包括遺贈し、共同相続人であるCの相続分をその余の相続財産(相続財産の2分の1)と指定するものであると解される。
そこで、上記各部分について、順次、被上告人が本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有することの根拠となるものであるかを検討する。

ア 本件遺言部分1は、Cの相続分を相続財産の2分の1と指定する旨の遺言であると解される。
イ 共同相続人は、相続開始の時から各自の相続分の割合で相続財産を共有し(民法896条、898条1項、899条)、相続財産に属する個々の財産の帰属は、遺産分割により確定されることになる。被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を指定することができるが(同法902条1項)、相続分の指定がされたとしても、共同相続人が相続開始の時から各自の相続分の割合で相続財産を共有し、遺産分割により相続財産に属する個々の財産の帰属が確定されることになるという点に何ら変わりはない。また、相続分の指定を受けた共同相続人は、相続財産である不動産について、不動産登記法63条2項に基づき、単独で指定相続分に応じた持分の移転登記手続をすることができるし、改正法の施行日前に開始した相続については、上記共同相続人は、その指定相続分に応じた不動産持分の取得を登記なくして第三者に対抗することができるから(最高裁平成5年7月19日第二小法廷判決)、遺言執行者をして速やかに上記共同相続人に上記不動産持分の移転登記を取得させる必要があるともいえない。
以上によれば、改正法の施行日前に開始した相続に係る相続財産である不動産につき、遺言により相続分の指定を受けた共同相続人に対してその指定相続分に応じた持分の移転登記を取得させることは、遺言の執行に必要な行為とはいえず、遺言執行者の職務権限に属しないものと解される。したがって、共同相続人の相続分を指定する旨の遺言がされた場合に、上記不動産につき上記遺言の内容に反する所有権移転登記がされたとしても、上記登記の抹消登記手続を求めることは遺言執行者の職務権限に属するものではないというべきである。そうすると、遺言執行者は、上記遺言を根拠として、上記不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではないと解するのが相当である。

ウ したがって、被上告人は、本件遺言部分1を根拠として、本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではない。

ア 本件遺言部分2は、Aの相続財産の3分の1をDに包括遺贈する旨の遺言であると解される。
イ 不動産又はその持分を遺贈する旨の遺言がされた場合において、上記不動産につき、上記の遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされたときは、遺言執行者は、上記登記の抹消登記手続又は上記持分に関する部分の一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解される(前掲最高裁昭和51年7月19日第二小法廷判決参照)。相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合についても、これと同様に解することができる(最高裁同年7月19日第二小法廷判決)。そして、以上のことは、審理の結果、遺言執行者が抹消登記手続を求める不動産が相続財産ではないと判断された場合であっても、異なるものではないというべきである。

そうすると、相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合において、遺言執行者は、上記の包括遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に包括受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされた不動産について、上記登記のうち上記不動産が相続財産であるとすれば包括受遺者が受けるべき持分に関する部分の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解するのが相当である。

ウ 以上によれば、被上告人は、上告人らに対し、本件登記のうち本件土地がAの相続財産であるとすればDが受けるべき持分3分の1に関する部分の一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有するということができる。

他方、前記事実関係の下において、本件遺言部分2の執行のために、本件登記のうち本件土地の上記持分3分の1を除くその余の持分に関する部分の抹消を求める必要があると解すべき事情はうかがわれないから、被上告人が、本件遺言部分2を根拠として、本件登記の抹消登記手続請求のうち本件土地の上記持分3分の1を除くその余の持分に関する部分に係る訴えについて原告適格を有するとはいえない。

ア 本件遺言部分3は、Aの相続財産の6分の1をEに包括遺贈する旨の遺言であるが、上記の包括遺贈は、Eの放棄によってその効力を失ったものと解される。したがって、上記包括遺贈について遺言執行の余地はなく、被上告人は、本件遺言部分3それ自体を根拠として、本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではない。
イ もっとも、Eが受けるべきであった本件土地の持分の全部又は一部が包括受遺者であるDに帰属すると解されるのであれば、Dへの当該持分の帰属については、直ちに遺言執行の余地がないとはいえない。
そこで、この点について検討すると、民法995条は、本文において、遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属すると解するのが相当である。
ウ これを本件についてみると、本件遺言部分3に係る包括遺贈は、Eの放棄によってその効力を失ったものであり、Aがその遺言に別段の意思を表示したことはうかがわれないから、Eが受けるべきであった本件土地の持分は、他の包括受遺者であるDには帰属せず、Aの相続人に帰属することとなったというべきである。したがって、被上告人が、Dへの上記持分の帰属を根拠として、本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するとはいえない。

以上によれば、被上告人は、本件登記の抹消登記手続請求のうち、本件土地がAの相続財産であるとすればDが受けるべき持分3分の1に関する部分に係る訴えについては原告適格を有するが、本件土地の上記持分3分の1を除くその余の持分に関する部分に係る訴えについては原告適格を有しない。

そして、前記事実関係によれば、本件土地のうちAの相続財産に属するのは持分2分の1(本件相続持分)に限られるから、Dが受けるべき本件土地の持分は6分の1となるところ、Aの相続人である参加人は、改正法による改正前の民法1013条の規定に違反して、上告人らとの間で本件売買契約を締結して上記持分6分の1を上告人らに譲渡し、本件登記の登記手続をしたものであるから、上記持分6分の1の処分行為は無効であり(最高裁昭和62年4月23日第一小法廷判決)、被上告人の本件登記の抹消登記手続請求のうち上記持分6分の1に関する部分は理由がある。

2 したがって、本件登記の抹消登記手続請求のうち上記持分6分の1に関する部分に係る訴えについて、被上告人が原告適格を有するとして被上告人の請求を認容した原審の判断は、是認することができ、この点に関する論旨は採用することができない。

他方、本件登記の抹消登記手続請求のうち上記持分6分の1を除くその余の本件相続持分(本件土地の持分3分の1)に関する部分に係る訴えについてまで、被上告人が原告適格を有するとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、この点に関する論旨は理由がある。被上告人は上記訴えについて原告適格を有しないから、これを却下すべきである。

第3 職権による検討
以上に説示したところによれば、被上告人は、本件登記の抹消登記手続請求のうち本件土地の本件相続持分を除くその余の持分2分の1(以下「本件相続外持分」という。)に関する部分についても、本件土地がAの相続財産であるとすればDが受けるべき持分6分の1に関する部分に係る訴えについては原告適格を有するが、上記持分6分の1を除くその余の本件相続外持分(本件土地の持分3分の1)に関する部分に係る訴えについては原告適格を有しない。
したがって、上記訴えについて被上告人が原告適格を有するとして被上告人の請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。被上告人は上記訴えについて原告適格を有しないから、これを却下すべきである。

第4 結論
以上によれば、被上告人の本件登記の抹消登記手続請求のうち、上告人らの持分合計3分の2(上告人Y1の持分150分の23、上告人Y2の持分150分の42及び上告人Y3の持分150分の35)に関する部分については、同部分に係る訴えを却下すべきであり、上記持分合計3分の2を除くその余の持分に関する部分については、上告人らの持分を合計6分の5(上告人Y1の持分120分の23、上告人Y2の持分120分の42及び上告人Y3の持分120分の35)とする所有権一部移転登記への更正登記手続を求める限度で認容し、その余を棄却すべきである。