最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

納骨堂経営許可処分取消、納骨堂経営変更許可処分取消請求事件

 令和5年5月9日最高裁判所第三小法廷判決

判示事項    
墓地、埋葬等に関する法律10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について、当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は、その取消しを求める原告適格を有する

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/062/092062_hanrei.pdf

1 本件は、大阪市長が、宗教法人であるA寺(「本件法人」)に対し、墓地、埋葬等に関する法律(「法」)10条の規定により、納骨堂の経営の許可(「本件経営許可」)及びその施設の変更の許可(「本件変更許可」、本件経営許可と併せて「本件各許可」)をしたところ、同納骨堂の周辺に居住する被上告人らが、上告人を相手に、本件各許可の取消し(被上告人X5及び同X6にあっては本件変更許可の取消しを除く。
以下同じ。)を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
法10条は、1項において、墓地、納骨堂又は火葬場(「墓地等」)を経営しようとする者は、都道府県知事(市又は特別区にあっては、市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けなければならない旨を規定し、2項において、1項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設(「墓地の区域等」)を変更しようとする者も、同様とする旨を規定する。
墓地、埋葬等に関する法律施行細則(昭和31年大阪市規則第79号。以下「本件細則」という。)8条は、本文において、市長は、法10条の規定による許可の申請があった場合において、当該申請に係る墓地等の所在地が、学校、病院及び人家の敷地からおおむね300m以内の場所にあるときは、当該許可を行わないものとすると規定し、ただし書において、市長が当該墓地等の付近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めるときは、この限りでないと規定する。
本件法人は、平成28年4月、大阪市a区所在の土地(「本件土地」)を購入した。
大阪市長は、本件法人の申請を受けて、平成29年2月27日付けで、本件法人に対し、法10条1項の規定により、本件土地において鉄筋コンクリート造地上6階建て(高さ24.5m、建築面積281.32㎡)の納骨堂(「本件納骨堂」)を経営することを許可した(本件経営許可)。
そして、大阪市長は、本件法人の申請を受けて、令和元年11月26日付けで、本件法人に対し、法10条2項の規定により、本件納骨堂の施設を変更すること(納骨堂の面積の拡張等)を許可した(本件変更許可)。
被上告人らは、いずれも、本件土地から直線距離で100m以内に所在する建物に居住している者である。

3 原審は、本件納骨堂からおおむね300m以内の人家に居住する被上告人らは本件各許可の取消しを求める原告適格を有すると判断し、第1審判決のうち被上告人らの訴えを却下した部分を取り消して、同部分につき本件を第1審に差し戻した。所論は、原審の上記判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。

行政事件訴訟法9条は、取消訴訟原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項、最高裁平成17年12月7日大法廷判決)。
上記の見地に立って、被上告人らが本件各許可の取消しを求める原告適格を有するか否かについて判断する。

ア 法は、墓地等の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とし(1条)、10条において、墓地等を経営し又は墓地の区域等を変更しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨を規定する。同条は、その許可の要件を特に規定しておらず、それ自体が墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い(最高裁平成12年3月17日第二小法廷判決。以下、この判決を「平成12年判決」という。)。

もっとも、法10条が上記許可の要件を特に規定していないのは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことに鑑み、墓地等の経営又は墓地の区域等の変更(「墓地経営等」)に係る許否の判断については、上記のような法の目的に従った都道府県知事の広範な裁量に委ね、地域の特性に応じた自主的な処理を図る趣旨に出たものと解される。そうすると、同条は、法の目的に適合する限り、墓地経営等の許可の具体的な要件が、都道府県(市又は特別区にあっては、市又は特別区)の条例又は規則により補完され得ることを当然の前提としているものと解される。
そして、本件細則8条は、法の目的に沿って、大阪市長が行う法10条の規定による墓地経営等の許可の要件を具体的に規定するものであるから、被上告人らが本件各許可の取消しを求める原告適格を有するか否かの判断に当たっては、その根拠となる法令として本件細則8条の趣旨及び目的を考慮すべきである。

イ 本件細則8条本文は、墓地等の設置場所に関し、墓地等が死体を葬るための施設であり(法2条)、その存在が人の死を想起させるものであることに鑑み、良好な生活環境を保全する必要がある施設として、学校、病院及び人家という特定の類型の施設に特に着目し、その周囲おおむね300m以内の場所における墓地経営等については、これらの施設に係る生活環境を損なうおそれがあるものとみて、これを原則として禁止する規定であると解される。そして、本件細則8条ただし書は、墓地等が国民の生活にとって必要なものであることにも配慮し、上記場所における墓地経営等であっても、個別具体的な事情の下で、上記生活環境に係る利益を著しく損なうおそれがないと判断される場合には、例外的に許可し得ることとした規定であると解される。
そうすると、本件細則8条は、墓地等の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家については、これに居住する者が平穏に日常生活を送る利益を個々の居住者の個別的利益として保護する趣旨を含む規定であると解するのが相当である。

ウ したがって、法10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について、当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は、その取消しを求める原告適格を有するものと解すべきである。所論引用の平成12年判決は、周辺に墓地及び火葬場を設置することが制限される施設の類型や当該制限を解除する要件につき、条例中に本件細則8条とは異なる内容の規定が設けられている場合に関するものであって、事案を異にし、本件に適切でない。
なお、原審は、納骨堂の構造設備の基準として周囲に塀を設けること等を規定する本件細則10条2号の趣旨及び目的をも参酌して、納骨堂の周辺に居住する者が上記許可の取消しを求める原告適格を有するとするが、同号は、納骨堂が静穏な環境の下で死者を追悼する施設となることを確保し、これを利用する者の利益を保護する趣旨の規定であると解されるから、納骨堂の周辺に居住する者に上記原告適格を認める根拠となるものではない。

エ 前記事実関係等によれば、被上告人らは、いずれも、本件納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住している者に当たるから、本件細則8条を根拠として、本件各許可の取消しを求める原告適格を有するものということができる。

5 以上のとおりであるから、被上告人らが本件各許可の取消しを求める原告適格を有するとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官林道晴の補足意見、裁判官宇賀克也の意見がある。