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検察官がした押収に関する処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件

 平成14年12月17日最高裁判所第二小法廷決定

判示事項    
被告事件について証拠調べ手続が開始された後に裁判官が発付した捜索差押許可状に基づき検察官が行った差押処分が是認された事例

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/851/057851_hanrei.pdf

本件各差押処分は,本件被告事件の第1審第12回公判期日後に検察官の請求により名古屋地方裁判所裁判官が発付した各捜索差押許可状に基づき行われたものではあるが,本件では,検察官において受訴裁判所に対し証拠調べの一環として捜索差押えの請求をしたとすれば,差押対象物について被告人らによる証拠隠滅のおそれがあったというのであるから,検察官による本件各差押処分を是認した原決定の判断は正当である。

よって,同法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官滝井繁男,同梶谷玄の各補足意見がある。
 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである。
 私は,被告事件について証拠調手続が開始された後においては,原則として捜査機関による捜索差押えは許されず,必要があれば,受訴裁判所に対し,証拠調べの一環として捜索差押えの請求をし,受訴裁判所を通してこれを実施すべきであると解するものであり,それが公判中心主義,当事者対等の原則という法の理念に適うものと考える。ただ,証拠調手続が開始された後においても,受訴裁判所による捜索差押えを待っていては,その間に証拠が隠滅されるなど,捜索差押えの目的を達し得ないときもあり,このような場合には,例外的に捜査機関による捜索差押えが許されることもあると考える。本件では,検察官において受訴裁判所に対し捜索差押えの請求をしたとすれば,関係者による証拠隠滅のおそれがあったというのであるから,検察官による本件各差押処分を是認した原決定の判断を正当とした法廷意見に賛成するものである。
 しかしながら,受訴裁判所を通して捜索差押えを実施する場合であれば,被告人及び弁護人は,当然にその内容を知り,これに対して意見を述べ,不服申立てを行うこともできるのであるから,例外的に捜査機関による捜索差押えが行われた場合には,事後的にせよ,受訴裁判所を通して捜索差押えが実施された場合と同様の手当てをし,被告人が不当な不利益を被らないようにすることが,上記法の理念の要請するところと考える。私は,このような観点から,当該被告事件に関し,証拠調手続開始後に捜査機関において捜索差押えを行った場合には,どのような捜索差押えが行われたかについて被告人及び弁護人に了知させるための措置を速やかに講じ,証拠開示の申立てや,差押処分に対する不服申立てなどを行う機会を付与することが必要であると解するものである。
 裁判官梶谷玄は,裁判官滝井繁男の補足意見に同調する。