最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

1上告審と無権代理人の訴訟行為の追認     2家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の上訴権限

昭和47年9月1日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
一、権限のある代理人は、上告審において、上告審および控訴審における無権代理人の訴訟行為を追認することができる。
二、家庭裁判所が選任した不在者財産管理人は、民法二八条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、不在者を被告とする建物収去土地明渡請求を認容した第一審判決に対し控訴を提起し、その控訴を不適法として却下した第二審判決に対し上告を提起する権限を有する。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/047/052047_hanrei.pdf

 職権をもつて按ずるに、本件記録によれば、本件訴訟の経緯は次のとおりである。
 第一審は、被上告人の提起した本件訴につき同人勝訴の判決を言い渡し、右判決正本は上告人の訴訟代理人である弁護士Dに送達されたところ、弁護士高島は上告人の訴訟代理人として本件控訴を提起し、原審は、同弁護士に訴訟代理権を認めえないとして、右控訴を却下する旨の判決を言い渡し、右判決正本は公示送達の方法によつて上告人に送達され、その後、上告人名義の上告状および上告理由書が提出されるに至つたものである。
 そして、本件記録に編綴されている東京家庭裁判所の審判書謄本、弁護士高島作成の昭和四六年一一月一二日付上申書ならびにE作成の報告書および委任状によれば、東京家庭裁判所は、昭和四六年六月九日、上告人の妻Eを上告人の不在者財産管理人として選任する旨の審判をなし、右審判は当時確定したところ、右Eは、同年一一月一二日弁護士高島を訴訟代理人として選任したこと、ならびに前記上告人名義の上告状および上告理由書は、上告人が作成、提出したものではなく、右Eが権限がないにもかかわらず上告人の代理人として作成、提出したものであることが認められる。

 訴訟代理人高島は、当審における昭和四七年一月二一日の本件口頭弁論期日において、上告に関し右Eがした上告人名義の訴訟行為および原審における弁護士高島の訴訟行為のすべてを追認するに至つた。

ところで、権限を有しない代理人によつてなされた訴訟行為であつても、その後これが権限ある代理人によつて追認されたときは、右追認により当該訴訟行為の時に遡つてその効力を生ずることは民訴法五四条、八七条の規定するところであり、また、その追認の時期につき制限を定めた規定のないこと、および同法三九五条二項の規定の趣旨に鑑みれば、権限のある代理人は、上告審において、上告審および原審における無権代理人の訴訟行為を追認することができるものと解するのを相当とする(大審院昭和一六年五月三日判決)。

そして、家庭裁判所の選任した不在者財産管理人が民法一〇三条所定の権限内の行為をするには、その行為が訴または上訴の提起という訴訟行為であつても、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を要しないものと解すべきところ、被上告人の提起した本訴建物収去土地明渡等の請求を認容する第一審判決に対し控訴を提起し、その控訴を不適法として却下した第二審判決に対し上告を提起することおよび右訴訟行為をさせるため訴訟代理人を選任することは、いずれも上告人の財産の現状を維持する行為として同法一〇三条一号にいう保存行為に該当するものであるから、本件不在者財産管理人および同人の選任した訴訟代理人は、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、本件第一、二審判決に対する上訴を提起する権限を有するものというべきである。

したがつて、前示の本件訴訟の経緯によるときは、上告人の不在者財産管理人Eが選任した訴訟代理人高島が、右Eの権限なくしてした上告の提起を追認したことにより、本件上告は適法になり、また、原審における右高島の控訴の提起が権限なくしてされたとしても、右訴訟代理人が当審においてこれを追認したことにより、右控訴も適法になつたのであるから、右高島に訴訟代理権のないことを理由として本件控訴を却下した原判決は、論旨の当否を判断するまでもなく、違法に帰したものというべきである。
 原判決は破棄を免れず、原審において更に審理を尽くさせるのを相当とするから、本件を東京高等裁判所に差し戻すこととする。