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所有権確認請求訴訟で敗訴した原告が後訴において共有持分の取得を主張することが前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないとされた事例

平成9年3月14日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
丙の共同相続人である甲乙間の土地の所有権確認請求訴訟において、甲の請求を棄却する旨の判決が確定した場合には、甲、乙がそれぞれ右土地の所有権を単独で取得したと主張して争っており、甲が事実審口頭弁論終結前に生じていた丙の死亡による相続の事実を主張しなかったこと、右判決が双方の主張を排斥して右土地が丙の所有である旨判断したこと、右判決の確定後に乙が右土地の所有権を主張したために甲が後訴を提起するに至ったことなどの事情があるとしても、甲が後訴において相続による右土地の共有持分の取得を主張することは、前訴の確定判決の既判力に抵触して許されない。

(補足意見及び反対意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/310/065310_hanrei.pdf

 一 原審の確定した事実関係及び記録によって認められる訴訟の経過等の概要は、次のとおりである。

 1 亡D(昭和三七年四月二三日死亡)の相続人は、上告人(妻)、E(長女)及び被上告人(次女)の三名である。

 2 原判決別紙物件目録一及び二記載の土地(以下「本件土地」という。)は、Dが所有者のFから賃借していた土地であるが、昭和三〇年一〇月五日に右土地につき同日付け売買を原因としてFから被上告人への所有権移転登記がされている。

 3 上告人は、Dが死亡した後の昭和四六年、被上告人に対して、本件土地につき上告人が所有権を有することの確認及び上告人への所有権移転登記手続を求める訴えを提起し、その所有権取得原因として、上告人が本件土地をFから買い受けた、そうでないとしても時効取得したと主張した。これに対し、被上告人は、本件土地を買い受けたのはDであり、Dは右土地を被上告人に贈与したと主張した。
 被上告人は、昭和五一年、本件土地上の建物の所有者に対し、所有権に基づいて地上建物収去・本件土地明渡しを求める訴えを提起し、右訴えは上告人の提起した訴えと併合審理された(以下、併合後の訴訟を「前訴」という。)。

 4 前訴の控訴審判決(以下「前訴判決」という。)は、本件土地の所有権の帰属につき、(1) 本件土地をFから買い受けたのは、上告人ではなく、Dであると認められる、(2) 被上告人がDから本件土地の贈与を受けた事実は認められない、と説示して、上告人の所有権確認等の請求を棄却し、被上告人の地上建物所有者に対する請求も棄却すべきであるとした。前訴判決に対して上告人のみが上告したが、昭和六一年九月一一日、上告棄却の判決により前訴判決が確定した。

 5 前訴判決の確定後、Dの遺産分割調停事件において、被上告人が本件土地の所有権を主張し、右土地がDの遺産であることを争ったため、上告人及びEは、平成元年に本訴を提起し、本件土地は、DがFから買い受けたものであり、Dの遺産であって、上告人及びEは相続によりそれぞれ右土地の三分の一の共有持分を取得したと主張し、本件土地がDの遺産であることの確認及び右各共有持分に基づく所有権一部移転登記手続を求めた。
 これに対し、被上告人は、前訴と同じくDから本件土地の贈与を受けたと主張するとともに、上告人が相続による右土地の共有持分の取得の事実を主張することは、前訴判決の既判力に抵触して許されないと主張し、反訴請求として上告人が本件土地の三分の一の共有持分を有しないことの確認を求めた。

 二 所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が同訴訟の事実審口頭弁論終結の時点において目的物の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じるから、原告が右時点以前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後の訴訟において主張することは、右確定判決の既判力に抵触するものと解される。
 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、上告人は、前訴において、本件土地につき売買及び取得時効による所有権の取得のみを主張し、事実審口頭弁論終結以前に生じていたDの死亡による相続の事実を主張しないまま、上告人の所有権確認請求を棄却する旨の前訴判決が確定したというのであるから、上告人が本訴において相続による共有持分の取得を主張することは、前訴判決の既判力に抵触するものであり、前訴においてDの共同相続人である上告人、被上告人の双方が本件土地の所有権の取得を主張して争っていたこと、前訴判決が、双方の所有権取得の主張をいずれも排斥し、本件土地がDの所有である旨判断したこと、前訴判決の確定後に被上告人が本件土地の所有権を主張したため本訴の提起に至ったことなどの事情があるとしても、上告人の右主張は許されないものといわざるを得ない。

これと同旨の見解に基づき、上告人の所有権一部移転登記手続請求を棄却し、被上告人の反訴請求を認容した原審の判断は、正当として是認することができる。