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判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合

令和5年3月24日最高裁判所第二小法廷判決

判示事項    
事件が一人の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合において、全部勝訴した原告が控訴をすることの許否(積極)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/938/091938_hanrei.pdf


1 記録によれば、本件の経過は次のとおりである。
上告人は、被上告人に対し、遺留分減殺を原因とする不動産の所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。
被上告人は、適式な呼出しを受けたにもかかわらず、第1審の第1回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。本件は、第1審において一人の裁判官によって審理されていたところ、同裁判官は、上記期日において口頭弁論を終結し、判決言渡期日を指定した。
上記の指定に係る判決言渡期日において、上記口頭弁論に関与していない裁判官が、民訴法254条1項により、判決書の原本に基づかないで上告人の請求を全部認容する第1審判決(以下「本件第1審判決」という。)を言い渡した。
上告人は、本件第1審判決には民訴法249条1項に違反する判決手続の違法があり、これは再審事由(同法338条1項1号)にも当たるなどとして、本件第1審判決を取り消し、改めて上告人の請求を全部認容する旨の判決を求めて控訴をした。

2 原審は、本件第1審判決には上記の判決手続の違法があるものの、上告人の請求は全部認容されているから、控訴の利益を認めることができず、本件控訴は不適法であるとして、これを却下した。

3 しかしながら、本件控訴が不適法であるとした原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
第1審において、事件が一人の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合、その判決手続は同法249条1項に違反するものであり、同判決には民事訴訟の根幹に関わる重大な違法があるというべきである。また、上記の違反は、訴訟記録により直ちに判明する事柄であり、同法338条1項1号に掲げる再審事由に該当するものであるから、上記の第1審判決によって紛争が最終的に解決されるということもできない。
したがって、上記の場合、全部勝訴した原告であっても、第1審判決に対して控訴をすることができると解するのが相当である。
そして、前記1の経過によれば、上告人は、本件第1審判決に対して控訴をすることができる。

4 以上によれば、本件控訴を不適法であるとして却下した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、改めて審理をさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。