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宅配便業者の運送過程下にある荷物について,荷送人や荷受人の承諾を得ずに,捜査機関が検証許可状によることなくエックス線検査を行うことは違法である。

 平成21年9月28日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ずに,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察する行為は,検証としての性質を有する強制処分に当たり,検証許可状によることなくこれを行うことは違法である。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=38022

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/022/038022_hanrei.pdf

原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件捜査に係る事実関係は,次のとおりである。

すなわち,大阪府警察本部生活安全部所属の警察官らは,かねてから覚せい剤密売の嫌疑で大阪市内の有限会社A(「本件会社」)に対して内偵捜査を進めていたが,本件会社関係者が東京の暴力団関係者から宅配便により覚せい剤仕入れている疑いが生じたことから,宅配便業者の営業所に対して,本件会社の事務所に係る宅配便荷物の配達状況について照会等をした。その結果,同事務所には短期間のうちに多数の荷物が届けられており,それらの配送伝票の一部には不審な記載のあること等が判明した。そこで,警察官らは,同事務所に配達される予定の宅配便荷物のうち不審なものを借り出してその内容を把握する必要があると考え,上記営業所の長に対し,協力を求めたところ,承諾が得られたので,平成16年5月6日から同年7月2日にかけて,5回にわたり,同事務所に配達される予定の宅配便荷物各1個を同営業所から借り受けた上,関西空港内大阪税関においてエックス線検査を行った。その結果,1回目の検査においては覚せい剤とおぼしき物は発見されなかったが,2回目以降の検査においては,いずれも,細かい固形物が均等に詰められている長方形の袋の射影が観察された(以下,これら5回の検査を「本件エックス線検査」という。)。なお,本件エックス線検査を経た上記各宅配便荷物は,検査後,上記営業所に返還されて通常の運送過程下に戻り,上記事務所に配達された。また,警察官らは,本件エックス線検査について,荷送人や荷受人の承諾を得ていなかった。

2 所論は,本件エックス線検査は,任意捜査の範囲を超えた違法なものであり,本件において事実認定の用に供された覚せい剤及び覚せい剤原料(「本件覚せい剤等」)は,同検査により得られた射影の写真に基づき取得した捜索差押許可状により得られたものであるから,違法収集証拠として排除されなければならないと主張する。

3 そこで,前記の事実関係を前提に検討すると,本件エックス線検査は,荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ることなく,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが,その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上,内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから,検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。そして,本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって,検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は,違法であるといわざるを得ない。

4 次に,本件覚せい剤等は,同年6月25日に発付された各捜索差押許可状に基づいて同年7月2日に実施された捜索において,5回目の本件エックス線検査を経て本件会社関係者が受け取った宅配便荷物の中及び同関係者の居室内から発見されたものであるが,これらの許可状は,4回目までの本件エックス線検査の射影の写真等を一資料として発付されたものとうかがわれ,本件覚せい剤等は,違法な本件エックス線検査と関連性を有する証拠であるということができる。

しかしながら,本件エックス線検査が行われた当時,本件会社関係者に対する宅配便を利用した覚せい剤譲受け事犯の嫌疑が高まっており,更に事案を解明するためには本件エックス線検査を行う実質的必要性があったこと,警察官らは,荷物そのものを現実に占有し管理している宅配便業者の承諾を得た上で本件エックス線検査を実施し,その際,検査の対象を限定する配慮もしていたのであって,令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとはいえないこと,本件覚せい剤等は,司法審査を経て発付された各捜索差押許可状に基づく捜索において発見されたものであり,その発付に当たっては,本件エックス線検査の結果以外の証拠も資料として提供されたものとうかがわれることなどの諸事情にかんがみれば,本件覚せい剤等は,本件エックス線検査と上記の関連性を有するとしても,その証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を肯定することができると解するのが相当である。

したがって,本件覚せい剤等を証拠排除せずに事実認定の用に供した第1審の訴訟手続を是認した原判断は,結論において正当である。