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非訟事件手続法による過料の裁判の合憲性  裁判に対する不服申立についての裁判の合憲性

昭和41年12月27日最高裁判所大法廷決定

裁判要旨    
一 非訟事件手続法による過料の裁判は、憲法第三一条、第三二条、第八二条に違反しない。
二 前項の裁判に対する不服申立についての裁判は、公開・対審の手続によらなくても、憲法第三二条、第八二条に違反しない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53835

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/835/053835_hanrei.pdf

非訟事件手続法

(管轄裁判所)
第百十九条 過料事件(過料についての裁判の手続に係る非訟事件をいう。)は、他の法令に特別の定めがある場合を除き、当事者(過料の裁判がされた場合において、その裁判を受ける者となる者をいう。以下この編において同じ。)の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
(過料についての裁判等)
第百二十条 過料についての裁判には、理由を付さなければならない。
2 裁判所は、過料についての裁判をするに当たっては、あらかじめ、検察官の意見を聴くとともに、当事者の陳述を聴かなければならない。
3 過料についての裁判に対しては、当事者及び検察官に限り、即時抗告をすることができる。この場合において、当該即時抗告が過料の裁判に対するものであるときは、執行停止の効力を有する。
4 過料についての裁判の手続(その抗告審における手続を含む。次項において同じ。)に要する手続費用は、過料の裁判をした場合にあっては当該裁判を受けた者の負担とし、その他の場合にあっては国庫の負担とする。
5 過料の裁判に対して当事者から第三項の即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を理由があると認めて原裁判を取り消して更に過料についての裁判をしたときは、前項の規定にかかわらず、過料についての裁判の手続に要する手続費用は、国庫の負担とする。

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 抗告人の抗告理由(抗告理由の補充を含む。)第一点及び第二点について。
 民法四六条が法人について一定の事項を登記すべきものとしているのは、権利主体たる法人の活動によつて生じる取引関係について、不測の損失や紛争を招来せしめないために、あらかじめ法人の組織に関する重要事項を一般に公示せしめることにしておく必要があるからである。従つて、その登記事項に変更を生じたときにも、一定の期間内にその登記をすることを義務づけ、これをしなければその変更を他人に対抗することができないものとしている。しかし、これらの登記を励行せしめるには、右の不利益をこうむらしめるだけではなお不十分であるとして、民法八四条一号は、登記の懈怠に対して、秩序罰たる過料の制裁を科することにしている。これは、国家の法人に対するいわゆる後見的民事監督の作用として、法人に関する私権関係の形成の安全化を助長し、もつて私法秩序の安定を期することを目的としているものということができる。

 右のような民事上の秩序罰としての過料を科する作用は、国家のいわゆる後見的民事監督の作用であり、その実質においては、一種の行政処分としての性質を有するものであるから、必ずしも裁判所がこれを科することを憲法上の要件とするものではなく、行政庁がこれを科する(地方自治法一四九条三号、二五五条の二参照)ことにしても、なんら違憲とすべき理由はない。従つて、法律上、裁判所がこれを科することにしている場合でも、過料を科する作用は、もともと純然たる訴訟事件としての性質の認められる刑事制裁を科する作用とは異なるのであるから、憲法八二条、三二条の定めるところにより、公開の法廷における対審及び判決によつて行なわれなければならないものではない。

 ただ、現行法は、過料を科する作用がこれを科せられるべき者の意思に反して財産上の不利益を課するものであることにかんがみ、公正中立の立場で、慎重にこれを決せしめるため、別段の規定のないかぎり、過料は非訟事件手続法の定めるところにより裁判所がこれを科することとし(非訟事件手続法二〇六条)、その手続についていえば、原則として、過料の裁判をする前に当事者(過料に処せられるべき者)の陳述を聴くべきものとし、当事者に告知・弁解・防禦の機会を与えており(同二〇七条二項)、例外的に当事者の陳述を聴くことなく過料の裁判をする場合においても、当事者から異議の申立があれば、右の裁判はその効力を失い、その陳述を聴いたうえ改めて裁判をしなければならないことにしている(同二〇八条ノニ)。
しかも、過料の裁判は、理由を付した決定でこれをすることとし(同二〇七条一項)、これに不服のある者は即時抗告をすることができ、この抗告は過料の裁判の執行停止の効力を有するものとする(同条三項)など、違法・不当に過料に処せられることがないよう十分配慮しているのであるから、非訟事件手続法による過料の裁判は、もとより法律の定める適正な手続による裁判ということができ、それが憲法三一条に違反するものでないことは明らかである。
 論旨は、また、過料の決定に対する不服申立の手続において公開の対審が保障されていないことは憲法八二条、三二条に違反すると主張する。しかし、本件のような秩序罰としての過料を非訟事件手続法の定めるところにより裁判所が科することにしているのが違憲でないことは、さきに説示したとおりであり、同法の定める手続により過料を科せられた者の不服申立の手続について、これを同法の定める即時抗告の手続によらしめることにしているのは、これまた、きわめて当然であり、殊に、非訟事件の裁判については、非訟事件手続法の定めるところにより、公正な不服申立の手続が保障されていることにかんがみ、公開・対審の原則を認めなかつたからといつて、憲法八二条、三二条に違反するものとすべき理由はない(裁判所のした過料の裁判を別訴の提起により覆えすことができないとした原決定の判断は正当といわなければならない。)。
 それゆえ、憲法八二条、三二条、三一条違背の主張は、採用しがたく、憲法二九条違反をいう点は、原決定の判断に憲法違反のあることを前提とするものであるから、右の説示によつて、その前提を欠くことになり、採用のかぎりでない。
 同第三点について。
 所論は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張にすぎず、適法な特別抗告理由にあたらない。
 よつて、本件抗告はこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とすべきものとし、主文のとおり決定する。
 この裁判は、裁判官田中二郎、同岩田誠の補足意見、裁判官入江俊郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。