株式会社の代表者が自己又は第三者の利益を図る意思で訴訟行為をした場合と民訴法四二〇条一項三号の再審事由
平成5年9月9日最高裁判所第一小法廷判決
裁判要旨
株式会社の代表者が自己又は第三者の利益を図る意思で訴訟行為をし、かつ、相手方において右代表者の意思を知り又は知り得べきであった場合でも、民訴法四二〇条一項三号の再審事由があるとはいえない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/778/052778_hanrei.pdf
一 本件は、被上告人に金員の支払を命じる確定判決につき、民訴法四二〇条一項三号の事由に当たる事実があるとして被上告人によって申し立てられた再審事件である。
被上告人は、同号の事由に当たる事実として、右確定判決が被上告人の代表者であった者において、自己の利益を図るために上告人と通謀して、上告人に準消費貸借契約に基づく元本等の支払を求める訴えを提起させ、真実に反して請求原因事実を自白したことによって得られたものであることを主張する。
原審は、会社の代表者が自己又は第三者の利益を図る意思で会社の代表者として訴訟行為をした場合において、相手方が右代表者の意思を知り又は知り得べきであったときは、右代表者の訴訟行為につき必要な授権が欠けていたのと同視することができ、このような事情の下に成立した確定判決には同号の事由があるものと解すべきであるとし、前記の被上告人の主張事実を同号の事由に当たるものと判断した。
そして、原審は、被上告人の主張事実を同号の事由に当たらないものとして本件再審の訴えを却下した第一審判決を取り消した。
二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
訴訟の当事者である株式会社の代表者として訴訟行為をした者に代表権があった場合には、右代表者が自己又は第三者の利益を図る意思で訴訟行為をしたときであっても、民訴法四二〇条一項三号の事由があるものと解することはできず、この理は、相手方において右代表者の意思を知り又は知り得べきであったとしても同様である。けだし、株式会社の代表者は、法に特別の規定がある場合を除き、当該会社の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(商法二六一条三項、七八条一項)のであり、その代表権限は、右代表者の裁判上の行為をする際の意思又は当該行為の相手方における右代表者の意思の知不知によって消長を来すものではないからである。
三 そうすると、右と異なる原審の前記一の判断には、民訴法四二〇条一項三号の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響することは明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、右に説示したところによれば、被上告人の本件再審の訴えを却下した第一審判決は相当であり、被上告人の控訴は棄却すべきものである。