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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

コンビニエンス・ストアのフランチャイズ契約に加盟店は運営者に対し加盟店経営に関する対価として売上高から売上商品原価を控除した金額に一定の率を乗じた額を支払う旨の条項がある場合において消費期限間近などの理由により廃棄された商品の原価等は売上高から控除されないとされた事例

 平成19年6月11日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
コンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンを運営する甲とその加盟店の経営者である乙との間の加盟店基本契約の条項中に,乙は甲に対し加盟店経営に関する対価として「売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの)」に一定の率を乗じた額を支払う旨の定めがある場合において,(1)「売上商品原価」という上記文言は,企業会計上一般に言われている売上原価を意味するものと即断することはできないこと,(2)本件契約書の付属明細書には廃棄ロス原価(消費期限間近などの理由により廃棄された商品の原価合計額)及び棚卸ロス原価(帳簿上の在庫商品の原価合計額と実在庫商品の原価合計額の差額であって,万引きや各店舗の従業員の商品等の入力ミスなどを原因として発生した金額)が営業費となることが定められ,甲の担当者は,上記契約が締結される前に,乙に対し,それらは営業費として加盟店経営者の負担であることを説明していたこと,(3)乙が上記契約締結前に甲から店舗の経営委託を受けていた期間中,当該店舗に備え付けられていた手引書の損益計算書についての項目には,「売上総利益」は売上高から「純売上原価」を差し引いたものであり,「純売上原価」は「総売上原価」から「仕入値引高」,「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されることが記載されていたことなど判示の事情の下では,上記契約条項所定の「売上商品原価」は,実際に売り上げた商品の原価を意味し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含まないものと解されるから,これらは,乙が支払うべき加盟店経営に関する対価の上記算定に当たり,売上高から控除されない。
 (補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/789/034789_hanrei.pdf

 

1 本件は,コンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンを運営する上告人との間でその加盟店となる契約を締結し,上告人に対し「A・チャージ」(「チャージ」)と呼ばれる契約上の対価を支払ってきた被上告人が,契約上,チャージ金額の算定の基礎となる売上高から控除されるべき費目(後記2(4)記載の廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価)の金額が控除されていなかったために,上告人は上記相当額を基礎として算定されたチャージ相当額部分を法律上の原因なく利得したことになると主張して,上告人に対し,不当利得金及びこれに対する遅延損害金の支払を請求する事案である。

2 原審が確定した事実関係の概要は次のとおりである。

(1) 上告人は,「A・システム」と称するコンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンの運営等をしている株式会社である。

(2) 被上告人は,上告人との間で,平成7年3月1日,上告人が被上告人に対して上記フランチャイズ・チェーンの加盟店を経営することを許諾し,かつ,経営指導,技術援助等を行い,被上告人が上告人に対してチャージを支払うことを内容とする加盟店基本契約(「本件契約」)を締結し,被上告人は,本件契約に基づいて「A・所沢B店」の経営を開始した。

(3) 本件契約の締結に際して被上告人と上告人とが交わした契約書(「本件契約書」)40条(「本件条項」)には,チャージの算定方法について,次の定めがある。

被上告人は,上告人に対し,「A店経営に関する対価として,各会計期間ごとに,その末日に,売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの。)にたいし,付属明細書(ニ)の第3項に定める率を乗じた額」を支払う(以下,この率を「チャージ率」という。)。

(4) 上告人は,被上告人が支払うべきチャージの金額を,毎月次のような計算方法(「上告人方式」)により算定し,被上告人は,この方法に従って上告人により算定された金額を支払ってきた。

ア チャージは,上告人から被上告人に対し毎月送付される損益計算書(「本件損益計算書」)に記載されている「売上総利益」(以下,本件損益計算書に記載されている「売上総利益」を「本件売上総利益」という。)に対して,チャージ率を乗じて算定される。

イ 本件損益計算書においては,本件売上総利益の金額は,「売上」の合計金額から「純売上原価」(以下「本件純売上原価」という。)を差し引いた金額とされている。そして,本件純売上原価は,月初商品棚卸高に当月商品仕入高を加算して月末商品棚卸高を控除することにより算出される「総売上原価」(「本件総売上原価」)から,次の「商品廃棄等」,「棚卸増減」及び「仕入値引高」の各金額を控除した金額とされている。

(ア) 商品廃棄等
消費期限間近などの理由により不良品として廃棄された商品の原価合計額(「廃棄ロス原価」)

(イ) 棚卸増減
帳簿上の在庫商品の原価合計額と実地棚卸しを行って得られた実在庫商品の原価合計額の差額であって,万引きや各店舗の従業員の商品等の入力ミスなどを原因として発生した金額(「棚卸ロス原価」)

(ウ) 仕入値引高
上告人が本件契約に基づき被上告人に送付している「商品報告書」に記載された仕入金額からの値引高の合計額

ウ そして,チャージ金額は,本件売上総利益にチャージ率を乗じて算定されるものであるが,次の計算式のとおり,本件売上総利益には廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が含まれることになる。

チャージ金額=本件売上総利益×チャージ率=(売上高-本件純売上原価)×チャージ率
={売上高-(本件総売上原価-廃棄ロス原価-棚卸ロス原価-仕入値引高)}×チャージ率

(5) 本件契約書18条1項において引用されている付属明細書(ホ)2項には,被上告人が負担すべき費目たる営業費とされるものが列挙され,その中に「ヲ.不良・不適格品の原価相当額」「ヘ.一定量の品べり(棚卸減)の原価相当額」との記載があり,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が営業費となることが定められている。

(6) 上告人が運営するフランチャイズ・チェーンに加盟して,店舗の経営をすることを希望する者は,通常,次のとおりの経営委託説明会,面接,経営委託による店舗運営の体験等の過程を経て上告人と加盟店基本契約を締結していたが,被上告人も,これに従い,同様の過程を経て本件契約を締結した。

ア 経営委託説明会では,契約希望者に対し,上告人から「A経営委託説明会」と題する資料が配付され,上告人の担当者から,上告人が運営するフランチャイズ・チェーンのシステム,事業内容,契約内容等の説明が行われた。同資料には,「売上」から「原価」を差し引いたものが「総利益」であること,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が,給料と共に3大営業費である旨が記載されていた。

イ 上告人の担当者は,契約希望者と4回にわたって面接し,第3次面接及び最終面接において,加盟店基本契約等の内容を示して,契約希望者の最終的な意思を確認していた。

ウ 契約希望者は,上告人の研修センターにおいて,スクールトレーニングと称する研修を受けた。この研修では,上告人から「オーナートレーニング研修ノート」と題する資料が配付され,5日間にわたり,レジスターの操作,商品発注の方法等店舗運営に関する講義や演習が行われた。同資料には,「売上高」から「売上原価」を差し引いたものが「売上総利益」であり,これを加盟店と上告人で分配することとなり,加盟店の取り分である総収入から「営業費」を差し引いたものが「利益」である旨の記載がされていた。

エ 契約希望者は,加盟店基本契約の締結に先立ち,上告人と経営委託契約を締結し,約3か月間,実際に店舗運営を行った。各店舗には,店舗経営のための詳細な手引書であるシステムマニュアルが備え付けられ,店舗を経営する中で疑問が生じたときは,適宜参照できるようになっていた。その第10章中の損益計算書についての項目には,「売上総利益」は,売上高から「純売上原価」を差し引いたものであること,「純売上原価」は,「総売上原価」から「仕入値引高」,「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されること等についての記載があった。

オ 上記経営委託を受けた者は,経営委託期間中,上告人から当該店舗についての損益計算書を受領していた。その損益計算書には,1~7の項目として,売上,売上原価,売上総利益,A・チャージ,総収入,営業費及び利益を記載する欄が設けられていた。そして,「2 売上原価」の欄に,(1)月初商品棚卸高,(2)当月商品仕入高,合計,(3)月末商品棚卸高,総売上原価,(4)仕入値引高,(5)商品廃棄等,(6)棚卸増減,純売上原価の各欄が,「6 営業費」の欄に,(3)棚卸増減,(11)不良品の各欄が,それぞれ設けられ,それらの各欄には上告人方式による金額が記載されていた。

(7) 上告人の担当者は,被上告人に対し,上記(6)の過程を通じて,①上告人が運営するフランチャイズ・チェーンのシステムにおいては,「荒利分配方式」という方式が採用されており,これは,売上高から売上原価を差し引いて算定した売上総利益(荒利益)を上告人と加盟店経営者が分け合うというものであって,上告人の取得分が売上総利益にチャージ率を乗じて得られるチャージであり,加盟店経営者は,売上総利益のその余の部分を総収入として取得し,その中から人件費を含む営業費をまかなうこと,②廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価は,人件費と合わせて3大営業費として加盟店経営者の全額負担となるが,経費を節減して加盟店経営者の利益を確保するという観点から,これらをコントロールすることが店舗経営において極めて重要であることの説明をした。

3 原審は,次のとおり判示して,被上告人の請求を一部認容した。

(1) 企業会計原則では,売上総利益は売上高から売上原価を控除したものをいうところ,本件契約においても,売上総利益は売上高から売上商品原価を差し引いたものとされているから,本件条項所定の「売上商品原価」の文言は,企業会計原則にいう売上原価と同義のものと解するのが合理的である。また,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を売上原価に含めないという上告人方式による会計処理は,企業会計原則上認められている会計処理ではあっても,企業会計上一般に採られている原価方式とは異なるものであるから,契約の条項において上告人方式によることが明記されていない以上,「売上商品原価」は,一般に理解されているとおり,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含む「売上原価」を意味するものと解するのが相当である。そうすると,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価をチャージ算定の基礎に含める契約文言上の根拠はない。
また,契約締結の経緯等に照らし,被上告人が上告人方式による会計処理及びこれに基づくチャージの算定方法を理解していたとは認められない。

(2) 以上によれば,被上告人と上告人との間で,チャージの算定を上告人方式によるとの意思の合致があったものとは認められないから,上告人が被上告人から徴収したチャージのうち,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価に相当する金額をチャージ算定の基礎とした部分は,法律上の原因がなく,上告人は,被上告人に対し,これを不当利得として返還すべきである。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 本件で問題となるのは,本件条項がチャージ算定の基礎として規定する「売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの。)」という文言のうち,「売上商品原価」の中に廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が含まれるか否かという点である。上告人方式によれば,売上商品原価とは,被上告人が実際に売り上げた商品の原価のことであるから,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が売上商品原価の中に含まれることはなく,その結果,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価に相当する額がチャージ率を乗じる基礎となる売上総利益の中に含まれることになる。

(2)ア まず,契約書の文言についてみると,「売上商品原価」という本件条項の文言は,実際に売り上げた商品の原価を意味するものと解される余地が十分にあり,企業会計上一般に言われている売上原価を意味するものと即断することはできない。

イ 次に,前記確定事実によれば,本件契約書18条1項において引用されている付属明細書(ホ)2項には廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が営業費となることが定められている上,上告人の担当者は,本件契約が締結される前に,被上告人に対し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価をそれぞれ営業費として会計処理すべきこと,それらは加盟店経営者の負担であることを説明していたというのであり,上記定めや上記説明は,本件契約に基づくチャージの算定方式が上告人方式によるものであるということと整合する。

ウ また,前記確定事実によれば,被上告人が本件契約締結前に店舗の経営委託を受けていた期間中,当該店舗に備え付けられていたシステムマニュアルの損益計算書についての項目には,「売上総利益」は売上高から「純売上原価」を差し引いたものであること,「純売上原価」は「総売上原価」から「仕入値引高」,「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されることなどが記載されていたことも明らかである。

(3) 契約書の特定の条項の意味内容を解釈する場合,その条項中の文言の文理,他の条項との整合性,当該契約の締結に至る経緯等の事情を総合的に考慮して判断すべきところ,前記(2)の諸事情によれば,本件条項所定の「売上商品原価」は,実際に売り上げた商品の原価を意味し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含まないものと解するのが相当である。そうすると,本件条項は上告人方式によってチャージを算定することを定めたものとみられる。

5 以上と異なる原審の前記判断には本件契約の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。

そして,被上告人は本件条項について錯誤無効の主張をしているので,この点について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官今井功,同中川了滋の補足意見がある。