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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

土地を時効取得したと主張する者が,当該土地は所有者が不明であるから国庫に帰属していたとして,国に対し当該土地の所有権を有することの確認を求める訴えにつき,確認の利益を欠くとされた事例

平成23年6月3日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
 表題部所有者の登記も所有権の登記もない土地を時効取得したと主張する者が,当該土地は所有者が不明であるから国庫に帰属していたとして,国に対し当該土地の所有権を有することの確認を求める訴えは,次の(1)〜(3)の事情の下では,確認の利益を欠く。

(1) 国は,当該土地が国の所有に属していないことを自認している。

(2) 国は,上記の者が主張する取得時効の起算点よりも前に当該土地の所有権を失った。

(3) 上記の者において,当該土地につき自己を表題部所有者とする登記の申請をした上で保存登記の申請をする手続を尽くしたにもかかわらず所有名義を取得することができなかったなどの事情もうかがわれない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/374/081374_hanrei.pdf

 

 1 本件は,原判決別紙物件目録記載の土地(「本件土地」)を時効取得したと主張する上告人が,本件土地は所有者が不明な土地であるから民法239条2項により国庫に帰属していたと解すべきであるなどとして,被上告人(国)に対し,上告人が本件土地の所有権を有することの確認を求める事案である。

被上告人は,本件土地は,過去において所有者が存在していたことが推認される民有地であって,国庫に帰属していたということはできないから,本件訴えは確認の利益を欠き不適法であると主張する。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,昭和30年5月26日に法人格を取得した宗教法人である。

 (2) 本件土地は,明治4年正月5日太政官布告第4号により官有地に区分され,次いで,明治7年11月7日太政官布告第120号により官有地第三種に区分された墳墓地であるが,その後,明治8年7月8日地租改正事務局議定「地所処分仮規則」に従い民有地に編入された。

 (3) 本件土地については,登記記録は作成されているが,表題部所有者の登記も所有権の登記もない。

 (4) 上告人は,法人格を取得した昭和30年5月26日から20年間本件土地を占有したことによりこれを時効取得したと主張して,被上告人に対し,平成19年12月14日送達の本件訴状により,取得時効を援用する旨の意思表示をした。

 3 所論は,本件土地は,表題部所有者の登記も所有権の登記もなく,従前の所有者が全く不明なのであるから,これを時効取得した上告人が現行登記制度の下で所有名義を取得するには本件訴えによるしかなく,本件土地は民法239条2項により国庫に帰属していたものと解して本件訴えの確認の利益を認めるべきであるのに,これを認めなかった原審の判断には,法令解釈の誤りがあるというのである。

 4 そこで検討すると,被上告人は,本件土地が被上告人の所有に属していないことを自認している上,前記事実関係によれば,被上告人は,本件土地が明治8年7月8日地租改正事務局議定「地所処分仮規則」に従い民有地に編入されたことにより,上告人が主張する取得時効の起算点よりも前にその所有権を失っていて,登記記録上も本件土地の表題部所有者でも所有権の登記名義人でもないというのであるから,本件土地の従前の所有者が不明であるとしても,民有地であることは変わらないのであって,上告人が被上告人に対して上告人が本件土地の所有権を有することの確認を求める利益があるとは認められない。

所論は,本件訴えの確認の利益が認められなければ,上告人がその所有名義を取得する手段がないという。

しかし,表題部所有者の登記も所有権の登記もなく,所有者が不明な土地を時効取得した者は,自己が当該土地を時効取得したことを証する情報等を登記所に提供して自己を表題部所有者とする登記の申請をし(不動産登記法18条,27条3号,不動産登記令3条13号,別表4項),その表示に関する登記を得た上で,当該土地につき保存登記の申請をすることができるのである(不動産登記法74条1項1号,不動産登記令7条3項1号)。

本件においては,上告人において上記の手続を尽くしたにもかかわらず本件土地の所有名義を取得することができなかったなどの事情もうかがわれず,所論はその前提を欠くものというべきである。
 そうすると,本件訴えは確認の利益を欠き不適法であるといわざるを得ない。

 5 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

不動産登記法

(申請の方法)
第十八条 登記の申請は、次に掲げる方法のいずれかにより、不動産を識別するために必要な事項、申請人の氏名又は名称、登記の目的その他の登記の申請に必要な事項として政令で定める情報(以下「申請情報」という。)を登記所に提供してしなければならない。
一 法務省令で定めるところにより電子情報処理組織(登記所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下この号において同じ。)と申請人又はその代理人の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用する方法
二 申請情報を記載した書面(法務省令で定めるところにより申請情報の全部又は一部を記録した磁気ディスクを含む。)を提出する方法

(表示に関する登記の登記事項)
第二十七条 土地及び建物の表示に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
一 登記原因及びその日付
二 登記の年月日
三 所有権の登記がない不動産(共用部分(区分所有法第四条第二項に規定する共用部分をいう。以下同じ。)である旨の登記又は団地共用部分(区分所有法第六十七条第一項に規定する団地共用部分をいう。以下同じ。)である旨の登記がある建物を除く。)については、所有者の氏名又は名称及び住所並びに所有者が二人以上であるときはその所有者ごとの持分
四 前三号に掲げるもののほか、不動産を識別するために必要な事項として法務省令で定めるもの

(所有権の保存の登記)
第七十四条 所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。
 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
 所有権を有することが確定判決によって確認された者
 収用(土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)その他の法律の規定による収用をいう。第百十八条第一項及び第三項から第五項までにおいて同じ。)によって所有権を取得した者