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普通地方公共団体の議会が長による民法108条に違反する契約締結行為を追認した場合における当該行為の法律効果の帰属

 平成16年7月13日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
 1 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には,民法108条が類推適用される。

2 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表するとともに相手方を代理し又は代表して契約を締結した場合において,議会が長による上記行為を追認したときは,民法116条の類推適用により,当該普通地方公共団体に法律効果が帰属する。

3 市の事業である博覧会の準備及び開催運営を行うことを唯一の目的として設立された財団法人が上記事務を行ったが,博覧会の入場料収入等だけではその開催運営経費を賄いきれないことから,市がその収支の赤字を回避する目的で当該法人との間で博覧会の施設及び物品を買い受ける旨の契約を締結したことにつき,市が当該法人に博覧会の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものとして両者間に実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地があり,市に上記赤字を補てんする法的義務があると解する余地も否定することができないという事情の下においては,博覧会の準備及び開催運営に関する両者の関係の実質,当該法人が行った博覧会の準備及び開催運営の内容並びにこれに関して支出された費用の内訳を確定することなく,市長及びその代決者に裁量権の逸脱,濫用があるとした原審の判断には,違法がある。
(1につき補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/313/052313_hanrei.pdf

 

 

 第1 本件の事実関係の概要等

 1 本件は,名古屋市(「市」)の住民である平成12年(行ヒ)第96号(以下「第1事件」という。)上告人・同第97号(以下「第2事件」という。)被上告人ら(以下「第1審原告ら」という。)が,市は第1事件被上告人・第2事件上告人財団法人A2博覧会協会(「第1審被告協会」)から世界デザイン博覧会(「デザイン博」)で使用された施設及び物品を違法に買い受けたなどと主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,市長の職にあった第1事件被上告人・第2事件上告人A1(「第1審被告A1」),助役の職にあった第1事件被上告人B(「第1審被告B」)及び収入役の職にあった同D(「第1審被告D」)に対し,
損害賠償を求め,第1審被告協会に対し,損害賠償等を求めた住民訴訟である。

 2 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 

 (1) 市と第1審被告協会との関係

 ア 市は,市制百周年の記念事業としてデザイン博を開催することとし,市議会に設置された市制百周年記念事業促進特別委員会等を通じて検討を重ね,昭和61年12月26日,デザイン博の準備及び開催運営を行うことを目的とし,存続期間を同65年3月31日までとして第1審被告協会が設立された。

 イ 第1審被告協会の会長(理事)には市長である第1審被告A1が,副会長(理事)には助役である第1審被告Bが,監事には収入役である第1審被告Dが,専務理事及び常務理事には市幹部職員がそれぞれ就任し,事務局も市職員を中心に構成された。第1審被告協会の寄附行為によると,第1審被告A1が会長として第1審被告協会を代表する権限を有し,第1審被告協会の運営に関する重要な事項は理事会において決することとされていた。また,愛知県や経済団体等の協賛を得る等の目的からこれらの団体の参加を得て設立段階の基本財産2250万円を確保し,うち市が1000万円を拠出した。

 ウ デザイン博は,平成元年7月15日から同年11月26日まで開催されたが,第1審被告協会の収入は後記の本件各契約の代金を含めると265億3500万円,支出は263億2500万円であり,差額2億1000万円の残余金が生じた。
第1審被告協会は,同2年3月28日,理事会において上記残余金を市に寄附する旨議決し,同月31日に解散した。 

 (2) 本件各契約締結に至る経緯

 ア 第1審被告協会が残余財産を有償譲渡することは当初予定されていなかったが,平成元年9月ころ,全会期中のデザイン博の入場者数総計が当初見込んでいた数に達しない状況となり,入場料収入等だけではデザイン博の開催運営経費を賄いきれないことが判明したため,第1審被告協会は,収支が赤字となることを回避するために施設及び物品を転用することの検討を開始し,転用する施設等の確定,転用先の調整,転用条件の設定などを行い,同月中旬から下旬にかけて,第1審被告協会の基本財産の出資者である市,愛知県,名古屋港管理組合名古屋商工会議所及び中部経済連合会に対して,転用可能施設一覧表を示して購入を依頼した。
 市においても第1審被告協会の収支が赤字となることを回避する目的で同月から各局において具体的な購入物件の検討を開始したが,各局から購入希望の出された物件の数が少なかったため,同年10月16日に開かれた幹部会において,各局に対して購入物件を増やすよう要請がされた。

 イ 市と第1審被告協会との間で,購入物件の価格について協議がされた結果,建築物で移設を要するものについては,第1審被告協会が取得価格を基に評価して提示した転用評価額に0.5を乗じた価格で,それ以外のものについては,転用評価額に0.9を乗じた価格で,それぞれ市が買い受けることとなった。さらに,市は,第1審被告協会の要請により,撤去,運搬に要する経費を代金に加算して支払うこととした。

 ウ 市は,平成元年11月27日から同2年2月15日にかけて,第1審被告協会から,同協会がデザイン博で使用した施設及び物品を代金総額10億3631万9324円で買い受けた。上記買受けに際して締結された契約は50件あり,各契約につき市の担当部局,契約年月日,契約金額及び目的物は,第1審判決別紙(一)契約一覧表のとおりである(以下,これらを併せて「本件各契約」といい,本件各契約を個別に特定して論ずる場合には同表の番号を付し「本件契約1」などという。)。

 (3) 本件各契約の行為者等

 ア 市において,本件各契約を締結する旨の意思決定は,第1審判決別紙(二)のとおり,本件契約16,36及び39については第1審被告A1が行ったが,他の契約(本件契約49を除く。)については助役以下代決規程(昭和39年達第51号。「本件代決規程」)等に基づき代決により行われ,本件契約18については第1審被告Bが代決により行った。また,本件各契約(本件契約49を除く。)の締結は,第1審判決別紙(三)のとおり,いずれも本件代決規程等に基づき代決により行われた。

 イ 第1審被告協会において,本件各契約の締結は,本件契約10,16,17,34,36及び45については第1審被告A1により行われたが,その他の契約の締結は,処務規程に基づき第1審被告A1に代わって決裁する権限を有する者により行われた。

 ウ 本件各契約(本件契約19から23まで及び49を除く。)の支出負担行為に関する確認は,1審判決別紙(五)のとおり,第1審被告Dあるいは収入役室副収入役以下代決規程(昭和41年収入役達第1号)に基づき副収入役及び審査課長により行われた。

 エ 本件契約49は,地方公営企業である水道事業の業務に係るものであり,市を代表する権限を有する管理者である水道局長が市を代表して締結したものであり,その業務に関する出納を行う権限も管理者が有している(地方公営企業法8条1項,27条)。
 また,本件契約19から23までは,地方公営企業である病院事業の業務に係るものであり,管理者の権限は出納に関するものを含め長が行うものとされている(同法34条の2,27条)。

 オ 本件各契約(本件契約49を除く。)のうち契約金額が200万円を超えるものについてのみ契約書が作成され,いずれも第1審被告A1が,市長として市を代表すると同時に第1審被告協会の会長として同協会を代表して契約を締結する旨記載されている。

 (4) 本件各契約締結後の市議会及び第1審被告協会の行為

 ア 平成2年3月22日に開催された市議会の市制百周年記念事業促進特別委員会において,本件各契約に関する議論がされた後,同委員会に付議された事件の審査を終了することが議決され,同月26日に開かれた本会議においても,その旨議決された。

 イ 市議会における平成2年度一般会計予算の審議に際して,同予算には本件各契約によって市が取得した物品の活用のための予算が含まれていたが,平成2年3月15日に開かれた市議会の総務民生委員会において,本件各契約に関する質疑がされた後,同予算のうち同委員会関係部分を可決する旨の議決がされ,同月20日に開かれた本会議において,同予算が可決された。

 ウ 市議会の一般会計等決算特別委員会において,平成元年度の決算を認定することが議決され,平成2年12月18日に開かれた本会議において,同決算が認定された。

 エ 平成2年3月29日に開かれた第1審被告協会の第13回理事会において,本件各契約による収入を含む平成元年度の収支決算書が議題とされ,同収支決算書が承認された。

 (5) 本件各契約の目的物

 ア 本件契約26から34までの目的物は,白鳥公園に設置された造形物,噴水等であり,市が第1審被告協会から購入した後もそのまま公園施設等として利用されている。

 イ 本件契約16の目的物は,デザイン博開催期間中,名古屋城会場に設置された音響効果を考慮した仮設建築物である本丸ステージである。その建設工事費総額1億4487万1000円のうち建築物自体の材料費は5000万円程度である。本丸ステージは,本件契約16の締結後,新たに9000万円の追加費用をかけて東山公園内に休憩所及び倉庫として再築されたが,再築までの間,解体された材料が野積みで放置され,再築後の屋根の材質は従前のものと異なっている。

 ウ 本件各契約の目的物の中には,上記以外の建造物として,車庫,鉄骨造平屋,便所,休憩所,営業施設等があるが,これらは,特段そのデザインが優れているとはいえないものや,デザイン都市を創造する等の市の施策の推進に大きな効果があるとまでは認められないものである。また,これらの中には,移設に当たり相当額の設置工事,建設工事を要するとみられるものがある。これらの建造物の購入価格は,第1審被告協会が設定した建築工事費用等を含む価格の65%相当額のものが大半を占め,中には80%を超えるもの,さらには購入価格が第1審被告協会が設定した価格を超えるものもみられる。

 エ 本件各契約の目的物の中には,上記以外の物品として,放送用機器,ベンチ,大型電光表示板,電話交換機,クーラー,樹木,投光器,フラッグポール,交通サイン,ごみ箱,すいがら入れ等があるが,これらは,特段そのデザインが優れているとはいえないものや,デザイン都市を創造する等の市の施策の推進に大きな効果があるとまでは認められないものである。これらの物品の購入価格は,第1審被告協会が設定した価格の95%から98%相当額のものが大半を占め,中には購入価格が第1審被告協会が設定した価格を超えるものもみられる。

 3 第1審原告らは,本件各契約が,双方代理禁止規定に違反して締結されたものであって無効であり,また,必要性のないものを不当に高額な代金で買い受けたものであってその締結には裁量権の逸脱,濫用があるとして,法242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,

① 同号所定の「当該職員」である第1審被告A1,同B及び同Dに対し,それぞれ,(ア)〔編注:「(ア)」は原本では○付きカタカナで表記されている。以下,かっこ付きカタカナ部分について同じ。〕 代決者による違法な契約の締結を阻止すべき指揮監督上の義務を怠りこれを締結させた,(イ) 助役として補助職員の担任する事務を監督すべき法的義務を怠りこれを締結させた,(ウ) 収入役として支出負担行為が法令又は予算に違反していないことを確認した上でなければ支出することができないにもかかわらずこれを怠り支出したなどとして損害賠償を請求し,

② 同号所定の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」である第1審被告協会に対し,第1審被告A1,同B及び同Dと共同して市に違法に公金を支出させたものであるとして不法行為に基づく損害賠償を請求し,また,無効な契約に基づき法律上の原因なく市の損失において代金相当額を利得したものであるとして不当利得の返還を請求している。
 第1審は,第1審被告A1及び同Bに対する訴えのうち本件契約49に係る部分及び第1審被告Dに対する訴えのうち本件契約19から23まで及び49に係る部分を不適法な訴えであるとして却下し,第1審被告A1及び同Dに対するその余の請求,第1審被告Bに対する本件契約18に係る請求及び第1審被告協会に対する請求(ただし,遅延損害金の支払請求を除く。)を認容し,その余の請求を棄却した。第1審被告らが控訴し,原審は,本件各契約(本件契約49を除く。)は,民法108条に反する双方代理行為により締結されたものであるが市議会の追認によりその効果が市に帰属するものであるとした上,本件契約26から34までを除く本件各契約が裁量権を逸脱,濫用して締結された違法なものであるとして,第1審被告A1に対しては2億1000万円及びこれに対する遅延損害金の限度で損害賠償請求を認容し,第1審被告協会に対しては2億1000万円の限度で損害賠償請求を認容し,第1審被告B及び同Dに対する請求を棄却し,また,本件各契約が無効となるものではないとして第1審被告協会に対する不当利得返還請求を棄却した。

 第2 職権による検討
 市においては,助役に対し,本件代決規程により契約を締結する旨の内部的意思決定をする権限が付与されているが,契約を締結する権限が付与されているものではない。

したがって,支出負担行為である本件各契約の締結について,法令上本来的権限を有する市長から助役である第1審被告Bに対し,法令,訓令等により委任がされ又は専決する権限が付与されていたということはできない。

そうすると,第1審被告Bは法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当しないというべきであるから,第1審被告Bに対する訴えは不適法というほかはない。

原判決中,第1審被告Bに対する請求のうち本件契約18に係る部分につきこれを棄却した部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,原判決中上記部分を破棄し,第1審判決中上記請求部分につきこれを認容した部分を取り消し,第1審被告Bに対する訴えを却下することとする。

また,本件訴訟は,第1審被告Bに対する訴えのうち本件契約18及び49に係る部分を除く部分も第1審被告Bのした控訴により原審に移審していたところ,第1審被告Bが法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当するか否かは職権調査事項であるから,原審は,同部分につき職権で第1審判決を取り消して第1審被告Bに対する訴えを却下すべきであったにもかかわらず,上記措置を採らなかった。

そこで,同部分につき第1審判決 を取り消した上,第1審被告Bに対する訴えを却下することとする。

 第3 第1事件上告代理人の上告受理申立て理由書(一)の上告受理申立て理由について

 1 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても,長が相手方を代表又は代理することにより,私人間における双方代理行為等による契約と同様に,当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると,

【要旨1】普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には,民法108条が類推適用されると解するのが相当である。そして,

【要旨2】普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表するとともに相手方を代理ないし代表して契約を締結した場合であっても同法116条が類推適用され,議会が長による上記双方代理行為を追認したときには,同条の類推適用により,議会の意思に沿って本人である普通地方公共団体に法律効果が帰属するものと解するのが相当である。

 2 これを本件についてみると,前記第1の事実関係等によれば,本件各契約(本件契約49を除く。)中には,市において代決によって締結された契約や第1審被告協会において会長に代わって決裁することとされている者により締結された契約があるが,対外的にはいずれも第1審被告A1の名をもって行われたということができるから,本件各契約(本件契約49を除く。)は,第1審被告A1の双方代理行為により締結されたものであるというべきである。
 しかしながら,前記第1の事実関係等によれば,市議会は,第1審被告A1を会長とする第1審被告協会との間で本件各契約(本件契約49を除く。)が締結されたことを十分認識して,前記第1の2(4)アからウまでのとおり審査や議決をしたものということができるから,本件各契約(本件契約49を除く。)を追認したというべきである。また,前記第1の2(4)エの事実によれば,第1審被告協会においても同様に追認があったというべきである。
 この点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。

 第4 第2事件上告代理人及び第2事件上告参加人(「第2事件上告代理人ら」)の上告受理申立て理由第三の二及び三並びに第四(ただし,排除されたものを除く。)について
 原審は,本件各契約(本件契約26から34までを除く。)の締結について裁量権の逸脱,濫用があったものと判断し,これを前提に第1審被告A1及び第1審被告協会の損害賠償責任を肯定した。

しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記第1の事実関係等によれば,市は,市制百周年の記念事業としてデザイン博を開催することとし,市議会に設置された市制百周年記念事業促進特別委員会等を通じて検討を重ね,愛知県や経済団体等の協賛を得る等の目的からこれらの団体の参加を得て設立段階の基本財産2250万円を確保し,デザイン博の準備及び開催運営を行わせることを唯一の目的として期間を限って第1審被告協会を設立したのであり,第1審被告協会の運営も市職員を中心として行われたのであって,第1審被告協会において上記検討を受けてデザイン博の実際の運営を行ったところ,入場者数が想定していた数字を下回る見込みとなり,デザイン博の入場料収入等だけではデザイン博の開催運営経費を賄いきれないことが判明し,第1審被告協会の赤字を回避する目的で本件各契約が締結されたというのである。

【要旨3】上記事実関係に基づいて考えると,デザイン博は市の事業として行われたのであって,市は,第1審被告協会の設立に際し,第1審被告協会に市の基本的な計画の下でデザイン博の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものと解することも可能であり,両者の間には実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地がある。

そうであるとすれば,市が,第1審被告協会に対し,同協会がデザイン博の準備及び開催運営のために支出した費用のうち,市が同協会にゆだねた範囲の事務を処理するために必要なものであって基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれないものを補てんすることは,不合理ではなく,市にその法的義務が存するものと解する余地も否定することができない。

そして,上記の点は,本件各契約の締結に裁量権の逸脱,濫用があったか否かを判断する上で,重要な考慮要素となるというべきである。

そうすると,デザイン博の準備及び開催運営に関する市と第1審被告協会との関係の実質,第1審被告協会が行ったデザイン博の準備及び開催運営の内容並びにこれに関して支出された費用の内訳を検討しなければ,本件各契約の締結について裁量権の逸脱,濫用があったかどうかを判断することはできないものというべきである。

しかるに,原審は,上記の点を確定しないまま前記のとおり判断しているのであって,その判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,その余は採用することができない。

 第5 第1事件上告代理人の上告受理申立て理由書(四)の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 第1審被告Dが本件契約1から18まで,24,25,35から48まで及び50について損害賠償責任を負わないとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 第6 第1事件上告代理人の上告受理申立て理由書(二)の上告受理申立て理由,第2事件上告代理人らの上告受理申立て理由第二について

 原審は,市が第1審被告協会に対して補助金を交付せざるを得なかった蓋然性等を根拠に,市に2億1000万円の限度で損害が生じたものと判断した。

 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。

その理由は,次のとおりである。

 仮に,本件各契約(本件契約26から34までを除く。)の締結について裁量権の逸脱,濫用があったものとすれば,これらにより市に生じた損害は,市が支払った代金額と市が取得した財産の価額との差額により算定すべきである。また,市が第1審被告協会に対して補助金を交付するには,公益上の必要があり(法232条の2),かつ,予算に計上して議会の議決を経なければならないことからすれば,原審のいう補助金交付の蓋然性のみでは本件各契約により市に損害が生じたことと市が第1審被告協会に対する補助金の支出を免れたこととの間に相当因果関係があると認めることはできない。そうすると,本件各契約により市に2億1000万円の限度で損害が生じたものとする原審の上記判断は,損害額の算定の方法を誤り,さらに,十分な根拠なく補助金の支出を免れたとするものであり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。第1事件上告代理人の論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。
 他方,市は,本件各契約により施設及び物品を取得しており,これらの施設及び物品の客観的価値は損害の算定に当たり考慮されるべきである。上記の物件がいずれも無価値であるとの事実は確定されておらず,むしろ記録によれば上記目的物の中には一定の客観的価値を有するものが含まれていることがうかがわれる。そうすると,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。第2事件上告代理人らの論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。

 第7 結論
 以上によれば,原判決中,① 第1審原告らの敗訴部分のうち,(ア) 第1審被告A1に対する請求中本件契約26から34まで及び49に係る部分を除く部分,(イ) 第1審被告協会に対する遅延損害金を除く請求中本件契約26から34までに係る部分を除く部分,(ウ) 第1審被告Bに対する請求中本件契約18に係る部分,② 第1審被告A1及び同協会の敗訴部分は,破棄を免れず,上記①(ア)及び(イ)並びに②の部分については以上説示したところによって更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すべきであり,第1審原告らの第1審被告Bに対する請求中本件契約49に係る部分を除く部分につき,第1審判決を取り消し,第1審原告らの訴えを却下すべきであり,第1審原告らのその余の上告を棄却すべきである。