単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人から不動産を譲り受けた者と相続回復請求権の消滅時効の援用
平成7年12月5日最高裁判所第三小法廷判決
裁判要旨
相続財産である不動産について単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産を譲り受けた第三者も右時効を援用することはできない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/119/076119_hanrei.pdf
共同相続人のうちの一人である甲が、他に共同相続人がいること、ひいては相続財産のうち甲の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながら、又はその部分についても甲に相続による持分があるものと信ずべき合理的な事由がないにもかかわらず、その部分もまた自己の持分に属するものと称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合には当たらず、甲は、相続権を侵害されている他の共同相続人からの侵害の排除の請求に対し、民法八八四条の規定する相続回復請求権の消滅時効の援用を認められるべき者に当たらない(最高裁昭和五三年一二月二〇日大法廷判決)。
そして、共同相続の場合において相続回復請求制度の問題として扱うかどうかを決する右のような悪意又は合理的事由の存否は、甲から相続財産を譲り受けた第三者がいるときであっても、甲について判断すべきであるから、相続財産である不動産について単独相続の登記を経由した甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の共同相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産を譲り受けた第三者も右時効を援用することはできないというべきである。
これを本件についてみるに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実によると、亡Dの共同相続人の一人であるEは、相続財産に属する本件土地について、共同相続人である被上告人らの承諾を得ることなく、無断で遺産分割協議書を作成して、単独名義の相続による所有権移転登記をしたというのであるから、Eが、本件土地の本来の相続持分を超える部分が他の共同相続人に属するものであることを知っていたか、又はその部分も含めて本件土地を単独相続したと信ずるにつき合理的な事由があるとはいえないことが明らかであって、相続回復請求制度の適用が予定されている場合に当たらず、Eは、民法八八四条の規定する相続回復請求権の消滅時効を援用することはできない。
したがって、同人から本件土地を譲り受けた上告人についても、同条の規定の適用はないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。