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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

いわゆる明示的一部請求の訴えに係る訴訟において,債権の一部消滅の抗弁に理由があると判断されたため判決において上記債権の総額の認定がされた場合における,残部についての消滅時効の中断

 平成25年6月6日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
1 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示した訴えに係る訴訟において,債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断されたため,判決において上記債権の総額の認定がされたとしても,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。
2 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じ,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができる。
3 消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6箇月を経過することにより,消滅時効が完成し,この理は,第2の催告が数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起されたことによる裁判上の催告であっても異ならない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=83305

 

上告代理人の上告受理申立て理由について

 1 本件は,亡Aの遺言執行者である上告人が,被上告人に対し,亡Aが死亡時に有していた未収金債権(「本件未収金債権」)の支払を求める事案である。

上告人は,既に,本件未収金債権の一部を請求する訴えを提起し,この請求を全部認容する旨の確定判決を得ており,本件訴訟は,その残部を請求するものである。上記の一部請求に係る訴えの提起が残部についても消滅時効の中断の効力を生ずるか否かが争われている。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,平成10年9月3日に死亡した亡Aの遺言により,その遺言執行者に就職した者である。

 (2) 本件未収金債権は,商行為によって生じた債権であり,その消滅時効期間は5年である。

 (3) 被上告人は,平成12年6月24日,上告人に対し,本件未収金債権につき,残高証明書を発行し,その債務を承認した。

 (4) 上告人は,平成17年4月16日到達の内容証明郵便で,被上告人に対し,本件未収金債権の支払の催告(「本件催告」)をした。

 (5) 上告人は,平成17年10月14日,大阪地方裁判所に対し,被上告人を被告として,本件未収金債権のうち5293万3243円の支払を求める訴え(「別件訴え」)を提起した。上告人は,別件訴えに係る訴訟において,本件未収金債権の総額は3億9761万2141円であり,その一部である5293万3243円を請求すると主張した。これに対し,被上告人は,本件未収金債権の上記総額には,相殺処理によって既に消滅した分が含まれていると主張した(「別件抗弁」)。

 (6) 大阪高等裁判所は,平成21年4月24日,別件抗弁に理由があると判断した上,現存する本件未収金債権の額は7528万3243円であると認定して,上告人の請求を全部認容する旨の判決(「別件判決」)を言い渡し,別件判決は同年9月18日に確定した。

 (7) 上告人は,平成21年6月30日,本件訴えを提起し,別件判決の認定に沿って,現存する本件未収金債権の額は7528万3243円であり,別件訴えに係る訴訟で請求していなかった残部(以下「本件残部」という。)の額は2235万円であると主張して,その支払を請求した。これに対し,被上告人は,本件残部については,本件催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。

 3 原審は,本件残部について,その額が2235万円であると認定したものの,消滅時効が完成していると判断して,上告人の請求を棄却した。

 4 所論は,

①別件判決においては,本件未収金債権の一部が消滅している旨の別件抗弁に理由があると判断された上,現存する本件未収金債権の額が7528万3243円であると認定されたのであるから,別件訴えの提起は,請求の対象となっていなかった本件残部についても,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずる,

②仮に上記①のように解することができなくとも,別件訴えの提起は,本件残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずると解すべきであり,別件訴えに係る訴訟の係属中に本件訴えが提起されたのであるから,本件残部につき確定的に消滅時効の中断の効力が生じているというのである。

 5(1) 所論①について

 ア 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合,当該訴えの提起による裁判上の請求としての消滅時効の中断の効力は,その一部についてのみ生ずるのであって,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない(最高裁昭和34年2月20日第二小法廷判決)。

そして,この理は,上記訴え(「明示的一部請求の訴え」)に係る訴訟において,弁済,相殺等により債権の一部が消滅している旨の抗弁が提出され,これに理由があると判断されたため,判決において上記債権の総額の認定がされたとしても,異なるものではないというべきである。

なぜなら,当該認定は判決理由中の判断にすぎないのであって,残部のうち消滅していないと判断された部分については,その存在が確定していないのはもちろん,確定したのと同視することができるともいえないからである。

 イ したがって,明示的一部請求の訴えである別件訴えの提起が,請求の対象となっていなかった本件残部についても,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるということはできない。

 (2) 所論②について

 ア 明示的一部請求の訴えにおいて請求された部分と請求されていない残部とは,請求原因事実を基本的に同じくすること,明示的一部請求の訴えを提起する債権者としては,将来にわたって残部をおよそ請求しないという意思の下に請求を一部にとどめているわけではないのが通常であると解されることに鑑みると,明示的一部請求の訴えに係る訴訟の係属中は,原則として,残部についても権利行使の意思が継続的に表示されているものとみることができる。

したがって,明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。

 イ もっとも,催告は,6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなければ,時効の中断の効力を生じないのであって,催告から6箇月以内に再び催告をしたにすぎない場合にも時効の完成が阻止されることとなれば,催告が繰り返された場合にはいつまでも時効が完成しないことになりかねず,時効期間が定められた趣旨に反し,相当ではない。
 したがって,消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6箇月を経過することにより,消滅時効が完成するというべきである。この理は,第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。

 ウ これを本件についてみると,上告人は,本件催告から6箇月以内に,別件訴えを提起したにすぎず,本件残部について民法153条所定の措置を講じなかったのであるから,本件残部について消滅時効が完成していることは明らかである。

 6 以上の次第であるから,上告人の請求を棄却した原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。

 

 

Summary of the Judgment:

In a lawsuit relating to a claim explicitly seeking a judgment for only a part of a divisible monetary claim, it was determined that there was a defense that a part of the claim had been extinguished. Therefore, even if the total amount of the claim was acknowledged in the judgment, the initiation of such a lawsuit does not have the effect of interrupting the statute of limitations as if it were a judicial claim for the remainder.
When a lawsuit is filed specifying a request for judgment for only a part of a divisible monetary claim, unless there are special circumstances where the creditor does not consistently indicate the intent to exercise rights for the remainder, such as clearly indicating no intent to claim the remainder in the future, the initiation of such a lawsuit produces the effect of interrupting the statute of limitations for the remainder as a judicial demand. The creditor can definitively interrupt the statute of limitations for the remainder by taking measures prescribed in Article 153 of the Civil Code within six months after the conclusion of the lawsuit related to such claim.
After the lapse of the period of extinguishment by prescription, even if a demand is made again within six months from the previous demand made before the lapse, if the measures prescribed in Article 153 of the Civil Code were not taken within six months from the first demand, the statute of limitations is completed by the passage of six months from the first demand. This principle remains unchanged even if the second demand is a judicial one due to a lawsuit filed specifying a request for judgment for only a part of a divisible monetary claim.

 

弁護士中山知行