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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

銀行が,輸入業者の輸入する商品に関して信用状を発行し,当該商品につき譲渡担保権の設定を受けた場合において,上記輸入業者が当該商品を直接占有したことがなくても,上記輸入業者から占有改定の方法によりその引渡しを受けたものとされた事例

平成29年5月10日最高裁判所第二小法廷決定

裁判要旨    
銀行であるXが,輸入業者であるYの輸入する商品に関して信用状を発行し,これによってYが負担する償還債務等に係る債権の担保として当該商品につき譲渡担保権の設定を受けた場合において,次の(1)及び(2)の事情の下では,Yが当該商品を直接占有したことがなくても,Xは,Yから占有改定の方法により当該商品の引渡しを受けたものといえる。
(1) XとYとの間においては,輸入業者から委託を受けた海運貨物取扱業者によって輸入商品の受領等が行われ,輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことが一般的であったという輸入取引の実情の下,上記譲渡担保権の設定に当たり,XがYに対し輸入商品の貸渡しを行ってその受領等の権限を与える旨の合意がされていた。
(2) 海運貨物取扱業者は,金融機関が譲渡担保権者として当該商品の引渡しを占有改定の方法により受けることとされていることを当然の前提として,Yから当該商品の受領等の委託を受け,当該商品を受領するなどした。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86748

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/748/086748_hanrei.pdf

1 本件は,輸入業者である抗告人から依頼を受けてその輸入商品に関する信用状を発行した銀行である相手方が,抗告人につき再生手続開始の決定がされた後,上記輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,抗告人が転売した上記輸入商品の売買代金債権の差押えを申し立てた事案である。相手方が占有改定の方法により上記輸入商品の引渡しを受けたか否かが争われている。

中略

抗告人は本件譲渡担保権の目的物である本件商品について直接占有したことはないものの,輸入取引においては,輸入業者から委託を受けた海貨業者によって輸入商品の受領等が行われ,輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことは,一般的であったというのであり,抗告人と相手方との間においては,このような輸入取引の実情の下,相手方が,信用状の発行によって補償債務を負担することとされる商品について譲渡担保権の設定を受けるに当たり,抗告人に対し当該商品の貸渡しを行い,その受領,通関手続,運搬及び処分等の権限を与える旨の合意がされている。一方,抗告人の海貨業者に対する本件商品の受領等に関する委託も,本件商品の輸入につき信用状が発行され,同信用状を発行した金融機関が譲渡担保権者として本件商品の引渡しを占有改定の方法により受けることとされていることを当然の前提とするものであったといえる。そして,海貨業者は,上記の委託に基づいて本件商品を受領するなどしたものである。
以上の事実関係の下においては,本件商品の輸入について信用状を発行した銀行である相手方は,抗告人から占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けたものと解するのが相当である。そうすると,相手方は,抗告人につき再生手続が開始した場合において本件譲渡担保権を別除権として行使することができるというべきであるから,本件譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,本件転売代金債権を差し押さえることができる。