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共同抵当の関係にある不動産の一部に対する抵当権の放棄とその余の不動産の譲受人が民法五〇四条所定の免責の効果を主張することの可否

平成3年9月3日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
債務者所有の甲不動産と第三者所有の乙不動産とが共同抵当の関係にある場合において、債権者が甲不動産に設定された抵当権を放棄するなど故意又はけ怠によりその担保を喪失又は減少したときは、その後の乙不動産の譲受人も債権者に対して民法五〇四条に規定する免責の効果を主張することができる。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52723

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/723/052723_hanrei.pdf

債務者所有の抵当不動産(「甲不動産」)と右債務者から所有権の移転を受けた第三取得者の抵当不動産(「乙不動産」)とが共同抵当の関係にある場合において、債権者が甲不動産に設定された抵当権を放棄するなど故意又は懈怠によりその担保を喪失又は減少したときは、右第三取得者はもとより乙不動産のその後の譲受人も債権者に対して民法五〇四条に規定する免責の効果を主張することができるものと解するのが相当である。すなわち、民法五〇四条は、債権者が担保保存義務に違反した場合に法定代位権者の責任が減少することを規定するものであるところ、抵当不動産の第三取得者は、債権者に対し、同人が抵当権をもって把握した右不動産の交換価値の限度において責任を負担するものにすぎないから、債権者が故意又は懈怠により担保を喪失又は減少したときは、同条の規定により、右担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった金額の限度において抵当不動産によって負担すべき右責任の全部又は一部は当然に消滅するものである。そして、その後更に右不動産が第三者に譲渡された場合においても、右責任消滅の効果は影響を受けるものではない。

これを本件についてみるのに、Fは、G物件につき確定判決を登記原因として前記否認の登記を経由した結果、抵当不動産の第三取得者となったものであるところ、被上告人が昭和五一年一二月二一日、G物件と共同担保の関係にあるK物件の抵当権を放棄した結果、これによって、Fは本件抵当権につきK物件から償還を受けることができなくなった金額の限度においてその責めを免れたことになり、その後右免責の効果の生じたG物件を取得した上告人も、被上告人に対し、右免責の効果を主張することができることになる。したがって、被上告人が、前記競売手続において、G物件の競売代金から、右免責により減縮された責任の額を超えて金員の交付を受けた場合においては、被上告人は法律上の原因なくして右金員を不当に利得したことになる。

してみると、これと異なり、上告人は被上告人に対し右免責の効果を主張することができないとした原審の判断は、民法五〇四条の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そこで、右免責の額等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。 

民法

(債権者による担保の喪失等)
第504条
1.弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても、同様とする。
2.前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。