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 固定資産課税台帳に登録された土地の価格についての審査の申出を棄却する旨の審査の決定をした固定資産評価審査委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められないとした原審の判断に違法があるとされた事例

令和4年9月8日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日におけるゴルフ場用地(ゴルフ場の用に供する一団の土地)の価格について、固定資産評価審査委員会が、当該ゴルフ場用地の取得価額の評定に当たり用いた方法との整合性の観点から、必要な土工事の程度を考慮することなく当該ゴルフ場用地の造成費を評定し得るとの見解に立脚して審査の申出を棄却する旨の審査の決定をした場合において、次の⑴、⑵など判示の事情の下では、上記見解に立脚して固定資産評価基準の解釈適用を誤ったことについて、上記委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められないとした原審の判断には、国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法がある。

⑴ 固定資産評価基準は、ゴルフ場用地の評価について、大要、当該ゴルフ場用地の取得価額に当該ゴルフ場用地の造成費を加算した価額を基準とする方法によるものとするとした上で、当該ゴルフ場用地の造成費が不明であるなどの場合には、当該造成費に代えて、最近における造成費から評定した価額によるものとする旨を定めている。
⑵ 固定資産評価基準において、ゴルフ場用地の取得価額と造成費は、別個に評定すべきものとされており、同基準の具体的な取扱いを示した自治省ないし総務省の通知等にも、取得価額の評定の方法に応じて造成費の評定の方法が直ちに決まることをうかがわせる記述はみられず、ほかに、上記見解に沿う先例や文献等の存在もうかがわれない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91392

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/392/091392_hanrei.pdf

1 本件は、ゴルフ場の用に供されている兵庫県丹波市所在の一団の土地(「本件各土地」)に係る固定資産税の納税義務者である上告人が、土地課税台帳に登録された本件各土地の平成30年度の価格を不服として丹波市固定資産評価審査委員会(「本件委員会」)に審査の申出をしたところ、これを棄却する旨の審査の決定(「本件決定」)を受けたことから、上記価格の適否に関する本件決定の判断に誤りがあるなどと主張して、被上告人を相手に、本件決定のうち上告人が適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき、弁護士費用相当額等の損害賠償を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

地方税法349条1項は、土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたもの(以下、これらの台帳に登録された価格を「登録価格」という。)とする旨規定し、同法403条1項は、市町村長は、同法388条1項の固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない旨規定する。平成30年度は上記の基準年度であり、これに係る賦課期日は平成30年1月1日である。

イ 固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)は、ゴルフ場の用に供する一団の土地(以下「ゴルフ場用地」という。)の評価について、大要、

①当該ゴルフ場を開設するに当たり要した当該ゴルフ場用地の取得価額に当該ゴルフ場用地の造成費を加算した価額を基準とし、当該ゴルフ場の位置、利用状況等を考慮してその価額を求める方法によるものとするとし、

②この場合において、取得価額及び造成費は、当該ゴルフ場用地の取得後若しくは造成後において価格事情に変動があるとき、又はその取得価額若しくは造成費が不明のときは、附近の土地の価額又は最近における造成費から評定した価額によるものとすると定めている(第1章第10節二。以下、上記②の定めを「本件定め」という。)。

ア 評価基準における本件定め等の具体的な取扱いに関し、自治省税務局資産評価室長は、平成11年法律第87号による改正前の地方自治法245条4項(現行法の245条の4第1項参照)の技術的な助言として、各道府県総務部長等宛てに「ゴルフ場の用に供する土地の評価の取扱いについて」と題する通知(同年9月1日付け自治評第37号)を発出し、また、総務省自治税務局資産評価室長は、同項の技術的な助言として、各道府県総務部長等宛てに「ゴルフ場用地の評価に用いる造成費について」と題する通知(平成29年7月3日付け総税評第31号)を発出した(以下、上記各通知を併せて「ゴルフ場通知」という。)。

ゴルフ場通知は、本件定めによる取得価額の評定の方法として、大要、周辺地域の大半が宅地化されているゴルフ場については近傍の宅地に比準する方法(「宅地比準方式」)を、それ以外のゴルフ場については開発を目的とした近傍の山林に比準する方法(「山林比準方式」)を挙げている。また、ゴルフ場通知は、本件定めによる造成費の評定の方法として、平成30年度の土地の価格の評価替えにおいては、ゴルフ場のコースに係る全国の平均的造成費(丘陵コースにあっては840円/㎡程度、林間コースにあっては700円/㎡程度)を参考として市町村において求めた額を基礎とするが、実情に応じ、これと異なる額となることもあるとしている。

イ 固定資産税務研究会編「固定資産評価基準解説(土地篇)」(平成30年発行。以下、単に「解説」という。)には、ゴルフ場通知にいう林間コース及び丘陵コースにつき、それぞれ、平野部に造られたコースで特に土工事(土量の切り盛り移動)を余り要しないもの及び丘陵地帯ないしは山岳のすそ野に造られたコースを指す旨の記述がみられる。

ア 本件各土地及びその周辺の土地は、昭和20年頃まで滑空機の訓練場として利用されており、山間にありながら傾斜の緩やかな土地となっている。そのうち本件各土地は、同45年頃には谷がなく平坦な地形であったところ、同49年頃、見通しの良い平らなゴルフ場に造成された。

丹波市長は、本件各土地につき、山林比準方式を用いて取得価額を評定するとともに、丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定した上で、平成30年1月1日における価格を合計2億0930万8435円と決定し、土地課税台帳に登録した(以下、この価格を「本件登録価格」という。)。

ウ 本件決定は、上記の造成費の評定に関し、本件各土地につき直接必要な土工事の程度からすれば、林間コースの平均的造成費(700円/㎡)を用いることも考えられるなどとしつつも、取得価額につき山林比準方式を用いて評定する以上、整合性の観点から、丘陵地帯ないしは山岳のすそ野の造成を前提とする丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定することが合理的である旨の理由により、本件登録価格の決定に違法はない旨の結論を示した。

3 原審は、上記事実関係等の下において、本件各土地の造成に当たり土工事をほとんど要しないにもかかわらず丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いることは、評価基準の定める評価方法に従ったものとはいえず、本件登録価格は評価基準によって決定される価格を上回るとして、上告人の本件決定の取消請求を一部認容すべきものとしたが、要旨次のとおり判断し、上告人の損害賠償請求を棄却すべきものとした。

本件定めによりゴルフ場用地の取得価額及び造成費を評定するに当たり、本件各土地のような特殊な場合の取扱いについて確たる先例があるとはうかがわれず、土地の地理的性質との整合を図るべきであるという本件決定の解釈それ自体には一定の合理性が認められるから、本件委員会の委員に職務上の注意義務違反があったと認めることはできない。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となるところ(最高裁平成25年7月12日第二小法廷判決)、当該登録価格について審査の申出を受けた固定資産評価審査委員会が、評価基準の解釈適用を誤り、過大な登録価格を是認する審査の決定をしたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、上記委員会が上記審査の決定をする上において、これを構成する委員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情がある場合に限り、上記評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決)。

ア 本件決定は、前記2 ウのとおり、本件各土地の取得価額につき山林比準方式を用いて評定する以上、整合性の観点から、丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定することが合理的である旨の理由によったものであり、本件各土地につき必要な土工事の程度を考慮することなく上記の額を用いて造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において、評価基準の解釈適用を誤ったものということができる。

イ 本件定めにおいては、評価の対象となるゴルフ場用地の造成費は、実際に要する造成費の額が不明であるなどの場合には、代替的に、最近における造成費から評定した価額によるべきものとされており、その趣旨に照らせば、平均的ないし類型的にであっても、必要な工事の程度に応じた評定が予定されているものと解すべきことは明らかである。
また、前記2 イのとおり、評価基準第1章第10節二において、ゴルフ場用地の取得価額と造成費は、飽くまでも別個に評定すべきものとされている。前記2によれば、本件定めの解釈適用に係る参考資料と位置付け得るゴルフ場通知や解説においても、ゴルフ場用地の取得価額については、周辺地域の大半が宅地化されているか否かにより、その評定の方法が決まるものとされている一方、ゴルフ場用地の造成費については、必要な土工事の程度等に応じた評定を予定していることがうかがわれる記述がみられる。少なくとも、これらの資料に、取得価額の評定の方法に応じて造成費の評定の方法が直ちに決まることをうかがわせる記述はみられない。
このほか、本件決定が立脚した上記アの見解に沿う先例や文献等の存在もうかがわれない。
そうすると、上記アの見解に相当の根拠はないというべきである。

ウ したがって、上記アの見解に立脚して評価基準の解釈適用を誤ったことについて、本件委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められないとした原審の判断には、国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法がある。

5 以上によれば、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中、損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、同部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。
なお、上告人のその余の上告については、上告人が上告受理申立ての理由を記載した書面を提出しないから、これを却下することとする。