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同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している複数の建物の固定資産課税台帳の登録価格についてされた審査申出の棄却決定の取消しを求める各請求が互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たるとされた事例

平成17年3月29日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している同一人所有の複数の建物について,固定資産課税台帳に登録された同一年度の価格につき需給事情による減点補正がされていないのは違法であるとしてされた審査の申出を棄却する固定資産評価審査委員会の決定のうち,所有者が各建物の適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める各請求は,互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/420/052420_hanrei.pdf

 1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。

 (1) 抗告人は,その所有に係る原決定別紙物件目録記載の物件番号1から同21までの21の建物(長野県南佐久郡a村大字b字c所在のゴルフ場に併設された一つのリゾートホテルを構成する宿泊施設,事務所,倉庫,店舗,寄宿舎等の建物。「本件各建物」)について,a村固定資産評価審査委員会に対し,平成15年度の固定資産課税台帳に登録された価格につき経年の減点補正がされただけで需給事情による減点補正がされていない点に不服があるとして,審査の申出をしたが,これを棄却する旨の決定(「本件決定」)を受けた。そこで,抗告人は,同委員会を被告として,本件決定のうち抗告人が本件各建物の適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める訴訟(「本件訴訟」)を提起した。

 (2) 抗告人は,本件訴訟に係る請求は1個であるとし,本件各建物ごとに訴えで主張する利益の額を計算し,これを合算した金額(889万7800円)を訴訟の目的の価額とした上で,これを基に算出した4万6000円が負担すべき手数料の額であるとして,同額の収入印紙をはって訴状(「本件訴状」)を提出した。

 (3) これに対し,第1審の裁判長は,本件訴訟に係る請求は21個であり,互いに行政事件訴訟法13条にいう関連請求に当たらないことを前提に,本件各建物ごとに訴訟の目的の価額を算定し,これに基づいてそれぞれ手数料の額を算出すべきであり,これによれば納められるべき手数料の合計額は8万3000円であるとした上で,抗告人が収入印紙をはって納めた手数料4万6000円は原決定別紙物件目録記載の物件番号1から同4までの各建物に係る手数料に充てられるけれども,同5以下の各建物については差額の3万7000円の手数料が不足しているとして,抗告人に対し,14日以内にこれを追納することを命ずる補正命令を発した。

 (4) しかし,抗告人は,上記手数料を納付しなかった。そこで,第1審の裁判長は,本件訴状の一部(本件各建物のうち原決定別紙物件目録記載の物件番号5以下の各建物に係る訴状)を却下した。

 (5) そこで,これに不服の抗告人が抗告をした。

 2 原審は,次のとおり判示して,抗告人の抗告を棄却した。

 (1) 市町村長は,個々の土地,家屋等の固定資産ごとにその価格を決定し,個々の固定資産ごとに作成される固定資産課税台帳にこれを登録する。固定資産税の納税者は,固定資産課税台帳に登録された価格(以下「登録価格」という。)について不服のある固定資産を選んで審査の申出をすることができるのであり,固定資産評価審査委員会の審査の決定は,固定資産課税台帳に登録された固定資産ごとにされなければならない。本件において,抗告人は,21の建物について審査の申出をし,これを棄却した決定の取消しを求めているのであるから,1通の訴状で21の審査決定について取消しを求めているものと解さざるを得ない。

 (2) 固定資産の評価については,個々の固定資産ごとにその具体的状況に従い個別に判断されるべきものであるから,一つの固定資産についての固定資産評価審査委員会の決定の取消訴訟と他の固定資産についての同委員会の決定の取消訴訟とが行政事件訴訟法13条にいう関連請求に当たらないことは明らかである。

 (3) 以上によれば,本件訴状に係る手数料は合計8万3000円となるところ,抗告人は手数料を4万6000円しか納付しなかったのであるから,第1審の裁判長としては,不足額3万7000円の納付を命じ,その納付がない場合に,各請求につき手数料の不足があるとして本件訴状の全部を却下すべきであるとも考えられるが,本件の第1審の裁判長のように,訴えを分離した上で不足額を生ずる訴えについて納付を命じ,その納付がなかったとして,納付を命じた部分に係る訴状のみを却下したからといって,これを違法とすべき理由はない。

 3 しかしながら,原審の判断のうち上記2の(1)は是認することができるが,同(2)及び(3)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 固定資産評価に関する地方税法の規定をみると,市町村長は,個々の土地,家屋等の固定資産ごとにその価格を決定し,個々の固定資産ごとに作成される固定資産課税台帳にこれを登録すべきものとされており(同法381条,410条1項,411条1項参照),固定資産評価審査委員会は,個々の固定資産ごとに登録価格に関する審査の申出を受けて審査し,決定をするものとされている(同法432条1項,433条1項)。そうすると,

【要旨】固定資産評価額に関する固定資産評価審査委員会の審査決定は,個々の固定資産ごとにされるものであり,1通の審査決定書において同一人の所有に係る複数の固定資産の登録価格について決定をしている場合でも,審査決定は,当該固定資産の数だけあるものというべきである。したがって,本件決定の個数は21である。
 以上と同旨の原審の前記2の(1)の判断は,正当として是認することができる。
この点に関する論旨は採用することができない。

 (2) 本件は,同一人の所有に係る,同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している本件各建物について,同一年度の登録価格につき,需給事情による減点補正がされていないのは違法であるとして,本件決定のうち抗告人が本件各建物の適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める訴訟である。これによれば,本件訴訟に係る各請求の基礎となる社会的事実は一体としてとらえられるべきものであって密接に関連しており,争点も同一であるから,

【要旨】上記各請求は,互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たるものと解するのが相当である。したがって,上記各請求に係る訴えは,同法16条1項により,これらを併合して提起することができるものというべきである。このように解することが,審理の重複や裁判の矛盾抵触を避け,当事者の訴訟提起・追行上の負担を軽減するとともに,訴訟の迅速な解決にも役立つものというべきである。そうすると,本件訴訟について納付されるべき手数料の額は4万6000円であって,抗告人が納付した手数料の額に不足はない。
 論旨は,以上と同旨をいうものとして,理由がある。

 4 以上によれば,前記3の(2)に判示したところと異なる見解に立って,本件訴状の一部を却下すべきものとした原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したがって,原決定を破棄し,第1審の裁判長がした訴状一部却下命令を取り消すこととする。