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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の対抗要件と構成部分の変動した後の集合物に対する効力

 昭和62年11月10日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
 一 構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の設定者がその構成部分である動産の占有を取得したときは譲渡担保権者が占有改定の方法によつて占有権を取得する旨の合意があり、譲渡担保権設定者がその構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、譲渡担保権者は右譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至り、右対抗要件具備の効力は、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物に及ぶ。

二 構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者は、特段の事情のない限り、三者異議の訴えによつて、動産売買先取特権者が右集合物の構成部分となつた動産についてした競売の不許を求めることができる。

三 構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権設定契約において、目的動産の種類及び量的範囲が普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、その所在場所が譲渡担保権設定者の倉庫内及び同敷地・ヤード内と指定されているときは、目的物の範囲が特定されているものというべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/185/055185_hanrei.pdf

 原審の適法に確定した事実関係は、

(一) 被上告会社は、昭和五〇年二月一日、D産業株式会社(「訴外会社」)との間で、大要次のような根譲渡担保権設定契約(「本件契約」)を締結した、

(1) 訴外会社は、被上告会社に対して負担する現在及び将来の商品代金、手形金、損害金、前受金その他一切の債務を極度額二〇億円の限度で担保するため、原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内を保管場所とし、現にこの保管場所内に存在する普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品の所有権を内外ともに被上告会社に移転し、占有改定の方法によつて被上告会社にその引渡を完了したものとする、

(2) 訴外会社は、将来右物件と同種又は類似の物件を製造又は取得したときには、原則としてそのすべてを前記保管場所に搬入するものとし、右物件も当然に譲渡担保の目的となることを予め承諾する、

(二) 被上告会社は訴外会社に対し、普通棒鋼、異形榛鋼、普通鋼々材等を継続して売り渡し、昭和五四年一一月三〇日現在で三〇億一七八七万〇三一一円の売掛代金債権を取得するに至つた、

(三) 訴外会社は、上告会社から第一審判決別紙物件目録記載の異形棒鋼(「本件物件」)を買い受け、これを前記保管場所に搬入した、

(四) 本件物件の価額は五八五万四五九〇円である、

(五) 上告会社は、本件物件につき動産売買の先取特権を有していると主張して、昭和五四年一二月、福岡地方裁判所所属の執行官に対し、右先取特権に基づき、競売法三条による本件物件の競売の申立(福岡地裁昭和五四年(執イ)第三二六五号)をした、というのである。

ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和五四年二月一五日第一小法廷判決)。

そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。

したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。

これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。

そして、右集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつて第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべきであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものというべきである。

これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。