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株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をしたことを理由に同取引の無効を会社以外の者が主張することの可否

 平成21年4月17日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合,当該会社以外の者が取締役会の決議を経ていないことを理由にその無効を主張することは,当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り,許されない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/535/037535_hanrei.pdf

 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 上告人Y2 は,平成4年に,神奈川県内に所在する墓地を運営していたAから,同墓地(「本件墓地」)の土地所有権等の財産の出えんを受けて設立され,以降,本件墓地の運営を行っている。

(2) Aは,上告人Y2 と共に,新たな墓地の開発を計画し,そのための資金を被上告人から借り入れて調達することとなった。そこで,被上告人は,Aに対し,平成8年5月21日から平成12年2月29日まで,7回にわたり,利息制限法1条1項所定の制限利率を超える月3分の利率による利息の約定で,合計4億6000万円を貸し付けた(「本件貸付け」)。
Aは,被上告人に対し,本件貸付けに係る各債務(「本件借入金債務」)の支払のために約束手形(「本件約束手形」)を振り出して交付した。

(3) Aは,上告人Y2 から,本件墓地のうち1130㎡分の永代使用権を2億5000万円で購入していたが,そのうち800㎡分の永代使用権(「本件墓地使用権」)を,平成14年1月,本件約束手形に基づく手形金債権の担保としてではなく,本件貸付けの一部の残債権(「本件被担保債権」)の担保として被上告人に譲渡し,上告人Y2 は,被上告人に対し,本件墓地使用権の対象区画の使用を承諾する旨を記載した使用権利証を交付した。

(4) Aは,本件借入金債務について,利息の支払を継続した。Aが利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると,本件借入金債務に対する最終の弁済がされた平成16年4月27日までに,本件貸付けのいずれの貸付けについても,過払金が生じていた。

(5) Aは,平成16年5月,約20億円の負債を抱えて,事実上倒産した。

(6) 上告人Y1 は,昭和62年ころから,Aに対し,金員を貸し付けていたところ,上記Aの倒産時に,約3億3000万円の貸金債権を有していた。そこで,Aの代表取締役と上告人Y1 の代表取締役は,平成16年12月4日,本件借入金債務について生じた過払金が約2億1000万円であるとして,同過払金についてのAの被上告人に対する不当利得返還請求権(「本件過払金返還請求権」)を上告人Y1 に譲渡する旨の合意をし(「本件債権譲渡」),Aの代表取締役は,同月7日,被上告人に対し,本件過払金返還請求権を上告人Y1に譲渡したことを通知した。本件債権譲渡がされた当時,Aには,本件過払金返還請求権以外に価値のある財産はほとんどなかったが,本件債権譲渡について,Aの取締役会の決議はなかった。

上告人Y はこれらのAの事情を知っていた。

 本件は,①上告人Y1 が,被上告人に対し,本件債権譲渡により取得した本件過払金返還請求権に基づき,その支払を求め,②上告人Y2 が,被上告人に対し,本件墓地使用権の譲渡は本件被担保債権の担保を目的としてAから被上告人に譲渡されたものであるから,被上告人は,本件被担保債権が弁済により消滅した結果本件墓地使用権を失ったと主張して,被上告人が本件墓地使用権を有しないことの確認を求める事案である。

なお,被上告人は,上告人Y1 の請求について,本件債権譲渡はAの「重要ナル財産ノ処分」(平成17年法律第87号による改正前の商法260条2項1号)に当たり,Aの取締役会決議を経ていないため無効である旨主張していたが,会社法の制定により,取締役会の権限に関しては同法に上記商法260条2項と同内容の規定である362条4項が設けられ,会社法の施行前に生じた事項にも適用されるものとされた(同法附則2項)ので,同法施行後は同法362条4項1号に該当することによる無効を主張するものと解される。

3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却した。

(1) 上告人Y1 の請求について

ア Aが事実上倒産した平成16年5月以降,本件過払金返還請求権がAの一般債権者の支払に充てるほとんど唯一の財産であったという状況に照らすと,2億円を超える本件過払金返還請求権の譲渡を内容とする本件債権譲渡は,Aの重要な財産の処分に当たり,取締役会の決議が必要であったというべきである。

イ 本件債権譲渡については,上記取締役会の決議がなく,上記債権譲渡の相手方である上告人Y1 もそのことを知っていたから,上記債権譲渡は無効である。

(2) 上告人Y2 の請求について

本件墓地使用権は,Aが上告人Y2 から対価を支払って購入したものであり,Aがこれを被上告人に譲渡したことについて,上告人Y2 も被上告人に使用権利証を交付して承認していること,上記譲渡の当事者であるA及び被上告人の間では,上記譲渡が現在も有効であり,被上告人に本件墓地使用権が帰属していることに争いがないこと,上告人Y2 は,本件墓地の所有者であるが,本件墓地使用権に基づく墓地使用を受忍する立場にある以上,上記使用権の帰属を承認せざるを得ないことから,本件墓地使用権は,被上告人に帰属しているものと認めざるを得ない。

4 しかしながら,原審の上記3(1)イ及び(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 上告人Y1 の請求について
会社法362条4項は,同項1号に定める重要な財産の処分も含めて重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項と定めているので,代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行をすることは許されないが,代表取締役は株式会社の業務に関して一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有することにかんがみれば,代表取締役が取締役会の決議を経ないでした重要な業務執行に該当する取引も,内部的な意思決定を欠くにすぎないから,原則として有効であり,取引の相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限り無効になると解される(最高裁昭和40年9月22日第三小法廷判決)。

そして,同項が重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項と定めたのは,代表取締役への権限の集中を抑制し,取締役相互の協議による結論に沿った業務の執行を確保することによって会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものと解される。

この趣旨からすれば,株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合,取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は,原則として会社のみが主張することができ,会社以外の者は,当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り,これを主張することはできないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件債権譲渡はAの重要な財産の処分に該当するが,Aの取締役会が本件債権譲渡の無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情はうかがわれない。

そうすると,本件債権譲渡の対象とされた本件過払金返還請求権の債務者である被上告人は,上告人Y1 に対し,Aの取締役会の決議を経ていないことを理由とする本件債権譲渡の無効を主張することはできないというべきである。

(2) 上告人Y2 の請求について

前記事実関係によれば,本件墓地使用権は,本件被担保債権の担保としてAから被上告人に譲渡されたものであり,本件被担保債権は,平成16年4月27日までには弁済により消滅したというのであるから,これにより担保の対象である本件墓地使用権はAに復帰したと解するのが相当である。

そして,被上告人は,上記の譲渡以外に本件墓地使用権の取得原因を主張していないのであるから,Aと被上告人との間で本件墓地使用権が被上告人に帰属していることに争いがないからといって,上告人Y2 との間において被上告人に本件墓地使用権が帰属しているということはできない。
なお,上告人Y2 は,本件墓地の土地所有権を有するのであるから,本件墓地使用権を有しないのにそれを有すると主張する者に対し,本件墓地使用権がその者に帰属しない旨の確認を求めることができることは明らかである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。
そして,上告人Y1 の請求については,被上告人の相殺の主張等について更に審理を尽くさせるため,同上告人の敗訴部分につき,本件を原審に差し戻すこととし,上告人Y2 の請求については,上記説示したところによれば理由があり,これを認めた第1審判決は正当であるから,同上告人の敗訴部分につき,被上告人の控訴を棄却することとする。