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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合における受戻しの許否

平成6年2月22日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合には、譲渡担保を設定した債務者は、譲受人がいわゆる背信的悪意者に当たるときであると否とにかかわらず、債務を弁済して目的不動産を受け戻すことができない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/446/052446_hanrei.pdf

一 原審は、

(1) 被上告人Bは昭和三二年三月二一日までに、Dから五二万円を同月から昭和四〇年一〇月二一日まで毎月二一日限り五〇〇〇円ずつ返済するとの約定で借り受け、その担保のため、自己所有の第一審判決別紙物件目録記載(一)の土地及び同(二)の建物(「本件建物」)の所有権をDに移転し、贈与を原因とする所有権移転登記を経由したが、昭和三八年五月以降その返済を怠った、

(2) Dは昭和五四年八月二九日、前記土地及び本件建物を上告人に贈与し、同月三一日その旨の所有権移転登記を経由した、

(3) 被上告人Bは昭和五六年八月二〇日、残元金及び同日までの遅延損害金を供託した、との事実を確定した。

 二 上告人は、Dからの贈与により本件建物の所有権を取得したとして、所有権に基づいて本件建物の明渡しを請求するものであるが、原審は、債権者が弁済期後に譲渡担保の目的不動産を第三者に譲渡した場合であっても、譲受人がいわゆる背信的悪意者であるときは、債務者はその清算が行われるまでは債務を弁済して目的不動産を受け戻すことができ、その所有権をもって登記なくして譲受人に対抗することができるところ、上告人は背信的悪意者に当たるから、被上告人Bは右の供託によって本件建物を受け戻し、その所有権をもって上告人に対抗することができると判断して、上告人の請求を棄却した。

 三 しかしながら、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなるものと解するのが相当である(最高裁昭和四九年一〇月二三日大法廷判決、最高裁昭和六二年二月一二日第一小法廷判決)。

この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない。けだし、そのように解さないと、権利関係の確定しない状態が続くばかりでなく、譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを確知し得る立場にあるとは限らない債権者に、不測の損害を被らせるおそれを生ずるからである。
したがって、前記事実関係によると、被上告人Bの債務の最終弁済期後に、Dが本件建物を上告人に贈与したことによって、被上告人Bは残債務を弁済してこれを受け戻すことができなくなり、上告人はその所有権を確定的に取得したものというべきである。

これと異なる原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があり、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れず、本件については、被上告人らの清算金との引換給付を求める旨の主張等その余の抗弁について更に審理を尽くさせるため原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。