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附記登記による所有権移転請求権保全仮登記の流用と附記登記後の第三者

 昭和49年12月24日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
金銭債権の担保のため債務者所有の不動産に所有権移転請求権保全の仮登記をするのに代えて、他の債権者の債権担保のため所有権移転請求権保全の仮登記が被担保債権の消滅にもかかわらず残存しているのを利用して新債権者への右請求権移転の附記登記をした場合、附記登記後に右不動産につき利害関係を有するにいたつた第三者は、特別の事情のないかぎり、右流用による登記の無効を主張することができない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/142/055142_hanrei.pdf

原審の確定するところによれば、訴外Dは、昭和三一年初めころから訴外Eより数回にわたり元本合計約五〇〇万円を借り受け、右債務を担保するため、その所有にかかる本件土地(原判決添付目録記載の土地)ほか数筆の土地につき大阪法務局中野出張所昭和三三年二月一一日受付第二七六一号をもつてEのため同年二月五日売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記をしたが、同年七月一日Eに対する債務金額を完済したので同人の債権と右仮登記上の権利はすべて消滅に帰したところ、その後、被上告人らの先代Fに対する補償全債務のうち五〇〇万円を担保するため、Fとの間にDが右債務の支払をしないときは、代物弁済として本件土地を含む五筆の土地の所有権をFに移転する旨を約し、そのためにはFのために新たに担保権の設定登記をすべきであるのに、たまたま前記債務を弁済した際Eから交付を受けていた本件土地等の前記仮登記の抹消登記に必要な権利証、印鑑証明書、白紙委任状を利用して、本件土地につき大阪法務局中野出張所昭和三三年七月九日受付第一八六四一号をもつてFのため同年七月七日権利譲渡を原因とする仮登記移転の附記登記をしたというのであつて、原審の挙示する証拠によれば、原審の右認定はこれを是認することができる。

そうすると、本来ならば、Eに対する債務の担保のためにされていた前記仮登記を抹消してFに対する新債務のための所有権移転請求権保全の仮登記をすべきであるのに、いわば、旧仮登記を権利移転の附記登記により新仮登記として流用したという事案であるとみられるのであり、しかも、Fにおいて五〇〇万円の補償金債権とその担保としての代物弁済の予約又は停止条件付代物弁済契約上の権利を有する目的不動産は本件土地であるから、Fを権利者とする本件仮登記移転附記登記は現在の実体上の権利関係と一致するものであるということができる。

このような経緯及び内容をもつた事案にあつては、たとえ不動産物権変動の過程を如実に反映していなくとも、仮登記移転の附記登記が現実の状態に符合するかぎり、当事者間における当事者はもちろん、右附記登記後にその不動産上に利害関係を取得した第三者は、特別の事情のないかぎり、右附記登記の無効を主張するにつき正当な利益を有しないものと解するのが、相当である。

ところで、原審の確定するところによれば、上告人は、昭和三三年一〇月二四日Dに対し、一五〇万円を弁済期日同三四年四月三〇日、利息年六分の約で貸し付け、右債務を担保するため、Dとの間に同人が弁済期日に債務の履行を遅滞したときは、代物弁済として本件土地及び他の一筆の土地の所有権が上告人に移転する旨の契約をし、大阪法務局中野出張所昭和三四年一月一〇日受付第四一三号をもつて上告人のため売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をしたが、Dにおいて弁済期日を過ぎても弁済をしなかつたため同出張所同年六月八日受付第一六三四六号をもつて上告人のため所有権移転登記をしたというのであるから、上告人はFの前記仮登記移転附記登記後に本件土地に利害関係を取得した第三者であることは明らかであり、かつ、特別の事情の存することは原審の認定しないところであるから、右附記登記の無効を主張するにつき正当な利益を有しないものといわなければならない。

したがつて、この点に関する原審の判断は、正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張し、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。