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認知者が血縁上の父子関係がないことを理由に認知の無効を主張することの可否

平成26年3月28日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができ,この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異ならない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/086/084086_hanrei.pdf

 1 本件は,血縁上の父子関係がないことを知りながら上告人を認知した被上告人が,上告人に対し,認知の無効確認を求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

被上告人は,平成14年2月▲日,上告人の母であるAと婚姻し,Aに請われて,同日,上告人(平成3年▲月▲日生まれ)の認知(「本件認知」)をした。上告人と被上告人との間には血縁上の父子関係はなく,被上告人は,本件認知をした際,そのことを知っていた。

被上告人は,自ら購入したマンションの一室において,A及び上告人と共に生活していたが,平成16年11月頃,同室から締め出されて別居するようになり,平成17年1月,Aの求めに応じて,協議離婚をするとともに同室をAに贈与した。上告人と被上告人は,その後,ほとんど交流していない。

Aは,平成17年9月,被上告人以外の男性と再婚し,上告人は,同年10月,上記男性と養子縁組をした。

 3 原審は,血縁上の父子関係がない場合において,認知者による認知の無効の主張を認めても,民法785条の趣旨に反するものとはいえず,また,認知者も同法786条の利害関係人に当たるとして,被上告人による本件認知の無効の主張を認め,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 4 所論は,認知者による認知の無効の主張を認めれば,無責任な認知を予防できなくなり,子の法的地位を不安定にするなどとして,血縁上の父子関係がないことを知りながら本件認知をした被上告人がその無効の主張をすることは許されないというのである。

 5 認知は,血縁上の父子関係を前提として,自らの子であることを認めることにより法律上の父子関係を創設する制度であると解されるところ,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反するものであって無効というべきである。

そして,認知の効力について強い利害関係を有する認知者自身について,このような理由による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない。

また,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知については,利害関係人による無効の主張が認められる以上(民法786条),認知を受けた子の保護の観点からみても,あえて認知者自身による無効の主張を一律に制限すべき理由に乏しく,具体的な事案に応じてその必要がある場合には,権利濫用の法理などによりこの主張を制限することで足りるものと解される。

認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできない。

したがって,認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができるというべきであり,この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない(最高裁平成26年1月14日第三小法廷判決)。

 6 以上によれば,被上告人は本件認知の無効を主張することができるとして,被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができる。