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特許権の存続期間の延長登録の理由となる薬事法所定の製造等の承認を受けることが必要であるために「特許発明の実施をすることができなかった期間」

平成11年10月22日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分である薬事法所定の製造等の承認を受けることが必要であるために「特許発明の実施をすることができなかった期間」は、右承認を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか遅い方の日から、右承認が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間である。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52250

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/250/052250_hanrei.pdf

 1 特許制度は、特許権者に業として特許発明を実施する権利を専有することを認めるとともに、特許権の存続期間を法定しているところ、旧法六七条三項は、特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による処分を受けることが必要であるためにその特許発明の実施をすることが二年以上できなかったときは、五年を限度として特許権の存続期間を延長することを認めている。
 同項の延長登録の理由となる処分は政令で定めるものに限られるところ、薬事法所定の医薬品の製造承認及び輸入承認並びにこれらの承認事項一部変更承認(以下、これらを「承認」という。)はこれに当たる(特許法施行令一条の三)。

 2 医薬品の製造又は輸入を業として行うためには、薬事法に基づく許可を受けなければならないが(薬事法一二条、二二条)、その許可の申請者が、製造又は輸入しようとする医薬品につき、承認を受けていないときは、その品目について右許可を受けることができない(同法一三条一項、二三条)。承認は、医薬品の有効性、安全性を公認する行政庁の行為であるが、これによって、その承認の申請者に製造業等の許可を受け得る地位を与えるものであるから、申請者に対する行政処分としての性質を有するものということができる。そうすると、承認の効力は、特別の定めがない限り、当該承認が申請者に到達した時、すなわち申請者が現実にこれを了知し又は了知し得べき状態におかれた時に発生すると解するのが相当である。 

 そして、関係法令を検討しても承認の告知方法を定めた規定は存在しないが、薬事法一四条一項、一三条一項等の文理からすれば、告知に関する規定がないことをもって、同法が、承認について申請者への告知を不要としているものとは解されず、他に申請者への到達なしに承認の効力が生ずることをうかがわせる定めはない。
 また、特許権の存続期間の延長に関する特許法の諸規定(旧法六七条三項、六七条の二第三項等)も、延長登録の理由となる処分はその処分が相手方に到達した時に効力を生ずることを前提としているものと解される。
 したがって、延長登録の理由となる処分としての承認は、申請者に到達した時にその効力が発生するものというべきである。

 3 右のように、延長登録の理由となる処分である薬事法所定の承認が申請者に到達した時に、承認の効力が生じ、承認を受けることが必要であるために特許発明の実施をすることができない状態が解除されることになるから、その効力が生じた日は、旧法六七条三項、六七条の三第一項四号所定の処分を受けることが必要であるために特許発明の実施をすることができなかった期間には含まれず、右期間の終期は、承認が申請者に到達した日の前日となる。

 4 以上のとおりであるから、【要旨】旧法六七条の三第一項四号にいう「特許発明の実施をすることができなかった期間」は、医薬品に関しては、承認を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか遅い方の日から、承認が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間であると解すべきものである。

 5 したがって、本件承認がG薬品株式会社に到達した日を確定することなく、本件承認書に記載された日付である平成三年六月二八日の前日をもって本件特許発明の実施をすることができなかった期間の終期と解し、本件出願が旧法六七条の三第一項四号に該当することを理由に本件出願を拒絶した本件審決は、違法であって、取り消されるべきものである。

以上と異なる見解の下に上告人の本件審決取消請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はその趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、上告人の本件審決取消請求はこれを認容すべきものである。