最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

産業廃棄物の最終処分場の周辺住民が産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可処分の無効確認訴訟並びに上記各処分業の許可更新処分の取消訴訟の原告適格を有するとされた事例

平成26年7月29日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
1 産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可処分及び許可更新処分の取消訴訟及び無効確認訴訟につき,これらの取消し及び無効確認を求める法律上の利益を有する者として原告適格を有する。
2 産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民は,約3万㎡の埋立地を有する管理型最終処分場である当該最終処分場の中心地点から約1.8kmの範囲内の地域に居住する者であって,当該最終処分場の設置の許可に際して生活環境に及ぼす影響についての調査の対象とされた地域にその居住地が含まれているなどの判示の事情の下では,当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可処分の無効確認訴訟並びに上記各処分業の許可更新処分の取消訴訟につき,これらの無効確認及び取消しを求める法律上の利益を有する者として原告適格を有する。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84346

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/346/084346_hanrei.pdf

1 本件は,宮崎県北諸県郡高城町(平成18年1月1日以降は合併により宮崎県都城市高城町。以下,合併の前後を通じて「高城町」という。)に設置された産業廃棄物の最終処分場を事業の用に供する施設として,宮崎県知事が参加人に対してした産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業(以下「産業廃棄物等処分業」という。)の各許可処分及び各許可更新処分につき,高城町ほかの地域に居住する上告人らが,被上告人を相手に,上記各許可処分の無効確認及びその取消処分の義務付け並びに上記各許可更新処分の取消し(上告人X2にあっては上記各許可更新処分の取消しを除く。)を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 参加人は,産業廃棄物及び特別管理産業廃棄物(「産業廃棄物等」)の収集,運搬及び処理等を目的とする株式会社である。

(2) 参加人は,平成15年6月10日,産業廃棄物処理施設の設置に係る許可を申請し,同年11月5日,宮崎県知事からその許可を受け,同17年8月23日,上記許可に係る産業廃棄物処理施設(産業廃棄物等の埋立処分を行う施設である産業廃棄物の最終処分場)を高城町内に設置した(「本件処分場」)。

上記申請の際,参加人は,本件処分場の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類(「本件環境影響調査報告書」)を申請書の添付書類として提出した。

(3) 宮崎県知事は,参加人に対し,本件処分場を事業の用に供する施設として,平成17年10月25日に産業廃棄物処分業の許可処分を,同年11月30日に特別管理産業廃棄物処分業の許可処分をし(「本件各許可処分」),また,同22年10月25日に産業廃棄物処分業の上記許可に係る許可更新処分を,同年11月30日に特別管理産業廃棄物処分業の上記許可に係る許可更新処分をした(「本件各更新処分」)。

(4) 本件処分場は,全体面積約25万㎡,埋立地の面積約3万㎡,埋立容量約47万㎥の管理型最終処分場であり,主要えん堤,埋立地(遮水工,浸出水集排水管等の設備を含む。),浸出水処理施設,防災調整池等を備えている。また,本件各許可処分及び本件各更新処分において埋立ての対象とされている産業廃棄物等の種類は,産業廃棄物につき,燃え殻,汚泥,廃油(タールピッチに限る。),廃プラスチック類,動植物性残さ,ゴムくず,金属くず,コンクリートくず,鉱さい,がれき類,ばいじん等であり,特別管理産業廃棄物につき,廃石綿等である。

(5) 上告人らのうち,上告人X1を除くその余の上告人らは,いずれも高城町に居住し,その居住地は本件処分場の中心地点から約1.8㎞の範囲内の地域に所在する。上告人X1は,都城市花繰町に居住し,その居住地は上記地点から少なくとも20㎞以上離れている。
上告人X1を除くその余の上告人らの居住地は,いずれも,本件環境影響調査報告書において調査の対象とされた地域に含まれており,上告人X1の居住地は,これに含まれていない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4 ・・・・・・原審の上記判断のうち,上告人X1につき本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しないとした部分は結論において是認することができるが,その余の部分は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。 

(1)ア 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項,最高裁平成17年12月7日大法廷判決)。

そして,行政事件訴訟法36条は,無効等確認の訴えの原告適格について規定するが,同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」についても,上記の取消訴訟原告適格の場合と同義に解するのが相当である(最高裁平成4年9月22日第三小法廷判決)。

イ また,行政事件訴訟法37条の2第3項は,同法3条6項1号所定の義務付けの訴えの原告適格について規定するが,当該処分の取消処分の義務付けを求めるにつき「法律上の利益を有する者」についても,上記アの取消訴訟原告適格の場合と同様の観点から判断すべきものと解するのが相当である(同法37条の2第4項参照)。

(2) 上記の見地に立って,上告人らが本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。

ア(ア) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成22年法律第34号による改正前のもの。「廃棄物処理法」)は,廃棄物の適正な処理等をすることにより生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(1条),産業廃棄物等処分業について都道府県知事を許可権者とする許可制を採り(14条6項,14条の4第6項),許可の要件として,その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであることを定めている(14条10項1号,14条の4第10項1号)。これらの規定を受けて,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(平成23年環境省令第1号による改正前のもの。以下「施行規則」という。)は,産業廃棄物等処分業を行おうとする者につき,その能力に係る基準を定めるとともに,その事業の用に供する施設に係る基準として,産業廃棄物等の種類や処分方法に応じた施設を有すべきことを定め(10条の5,10条の17),このうち埋立処分を業として行う場合については,産業廃棄物等の種類に応じ,当該産業廃棄物等の埋立処分に適する最終処分場及びその他の施設を有すべきことを定めている(10条の5第2号イ(1),10条の17第2号イ(1))。

産業廃棄物の最終処分場について,廃棄物処理法は,その設置に係る許可の要件として,産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合していること(15条の2第1項1号)並びに産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画が周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされたものであること(同項2号)を要するものと定め,また,当該施設が都道府県知事の検査において上記の設置に関する計画に適合していると認められることをその使用の要件として定め(同条5項),さらに,上記の維持管理に関する計画に従い当該施設の維持管理がされるべきことを定めている(15条の2の2)。これらの規定を受けて,一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令(平成23年環境省令第1号による改正前のもの)は,産業廃棄物の最終処分場及びその維持管理に係る技術上の基準を定め(2条),最終処分場の種類に応じ,産業廃棄物及びこれに含まれている有害な物質の流出や浸出等を防止するための設備が設けられ,必要な措置が講ぜられるべきこと等を定めている(管理型最終処分場については,同省令2条1項4号において準用される1条1項4号,5号イ等)。上記のような産業廃棄物の最終処分場についての技術上の基準に関する定めの内容に加えて周辺地域の生活環境の保全に関する適正な配慮を要するとされていることに照らすと,同法においては,その設置に係る許可の要件等に関し,産業廃棄物の最終処分場が上記の技術上の基準に適合していることにつき,周辺地域の生活環境の保全という観点からもその審査を要するとされているものと解される。

産業廃棄物等処分業の許可の要件として埋立処分を業として行う場合に有すべきものとされている最終処分場は,上記のとおり,その施設としての設置に係る許可の要件等につき上記の審査を経るものであるところ,産業廃棄物等処分業の許可の要件としても,その埋立処分に適するものでなければならないとされているのであるから,上記の技術上の基準に適合している施設であることを要するものと解される。そうすると,廃棄物処理法においては,産業廃棄物等処分業の許可の要件に関しても,産業廃棄物等処分業を行おうとする者がその事業の用に供する施設として上記の技術上の基準に適合している最終処分場を有していることにつき,周辺地域の生活環境の保全という観点からもその審査を要するとされているものと解するのが相当である。

(イ) 加えて,廃棄物処理法は,産業廃棄物等処分業の許可には生活環境の保全上必要な条件を付すことができるものとし(14条11項,14条の4第11項),当該許可を受けた者の事業の用に供する施設が所定の基準(14条10項1号,14条の4第10項1号)に適合しなくなったとき,又は生活環境の保全上必要な条件として当該許可に付された条件に違反したときは,都道府県知事は,その事業の全部若しくは一部の停止を命じ,又は当該許可を取り消すことができるものとしている(14条の3第2号,3号,14条の3の2第2項,14条の6)。また,同法は,産業廃棄物等処分業の許可は,5年を下らない政令で定める期間ごとにその更新を受けなければ,その期間の経過によってその効力を失うものと定め(14条7項,14条の4第7項),所定の期間ごとに上記(ア)のような産業廃棄物等処分業の許可に係る要件の審査が行われるものとしている。

(ウ) また,廃棄物処理法は,産業廃棄物処理施設の設置に係る許可につき,上記(ア)のとおりその設置に関する計画が周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされていることもその要件として定めているところ,上記許可の申請に際して,当該施設の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類(「環境影響調査報告書」)を申請書に添付して公衆の縦覧に供すべきものとし(15条3項,4項),市町村長や利害関係者の生活環境の保全上の見地からの意見の聴取等の手続を定め(同条5項,6項),都道府県知事が上記の設置に係る許可をするに当たっても,生活環境の保全に関し専門的知識を有する者の意見を聴取すべきものとしている(15条の2第3項)。上記の環境影響調査報告書には,同法の上記の規定を受けて,

①設置しようとする産業廃棄物処理施設の種類,規模及び処理する産業廃棄物の種類を勘案し,当該施設を設置することに伴い生ずる大気質,水質,悪臭,地下水等に係る事項のうち,周辺地域の生活環境に影響を及ぼすおそれがあるものとして調査を行ったもの及びその現況等,

②当該施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を予測するために把握した水象,気象その他自然的条件及び人口,土地利用その他社会的条件の現況等,

③上記の影響の程度を分析した結果などの事項を記載すべきものとされている(施行規則11条の2)。そして,環境省が上記の調査を適切で合理的に行われるものとするために上記の調査に関する技術的な事項を科学的知見に基づいて取りまとめて公表している「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」において,上記の調査の対象とされる地域は,施設の種類及び規模,立地場所の気象及び水象等の自然的条件並びに人家の状況等の社会的条件を踏まえて,当該施設の設置が生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として選定されるものとされている。

なお,本件処分場よりも大きい一定規模以上の産業廃棄物の最終処分場の設置に際しては,環境影響評価法に基づく環境影響評価の実施及び環境影響評価書の作成が義務付けられ(同法2条2項1号ヘ,3項,12条1項,21条2項,環境影響評価法施行令1条,7条,別表第1),同法の制定の根拠として環境影響評価の推進に係る国の責務を定めた環境の保全に係る基本法である環境基本法は,環境の保全に関する施策を推進すること等をもって国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とし(1条),環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることを公害と定義し(2条3項),公害を防止するために必要な規制の措置を講ずべきこと(21条1項1号)等を定めている。

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の各規定については,本件各許可処分がされてから本件各更新処分がされるまでの間における廃棄物処理法及び関係法令の改正の前後を通じて,その実質に差異はない。

イ 有害な物質を含む産業廃棄物等の埋立処分を行う施設である産業廃棄物の最終処分場については,その設備に不備や欠陥があって当該最終処分場から有害な物質が排出された場合には,これにより環境基本法2条3項にいう公害の発生原因となる大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等が生じ,当該最終処分場の周辺地域に居住する住民の生活環境が害されるおそれがあるばかりでなく,その健康に被害が生じ,ひいてはその生命,身体に危害が及ぼされるおそれがある。このことに鑑み,廃棄物処理法においては,上記のような事態の発生を防止するために,前記アのとおり,産業廃棄物の最終処分場につき,その安全性を確保する上で必要な技術上の基準への適合性が保持され,周辺地域の生活環境の保全が図られるための規制等が定められており,産業廃棄物等処分業の許可に関し,その要件について最終処分場の上記の適合性につき周辺地域の生活環境の保全という観点からもその審査を要するとされるとともに,生活環境の保全上必要な条件を付し得るものとされ,その条件の違反等を理由とする事業の停止命令や許可の取消しを行い得るなどとされているものと解される。

そうすると,産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法の規定は,産業廃棄物の最終処分場から有害な物質が排出されることに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって,その最終処分場の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もってこれらの住民の健康で文化的な生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものと解される。
そして,産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって当該最終処分場の周辺地域に居住する住民が直接的に受ける被害の程度は,その居住地と当該最終処分場との近接の度合いによっては,その健康又は生活環境に係る著しい被害を受ける事態にも至りかねないものである。しかるところ,産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法の規定は,上記の趣旨及び目的に鑑みれば,産業廃棄物の最終処分場の周辺地域に居住する住民に対し,そのような最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるのであり,上記のような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわなければならない。

ウ 以上のような産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法の規定の趣旨及び目的,これらの規定が産業廃棄物等処分業の許可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通じて,公衆衛生の向上を図るなどの公益的見地から産業廃棄物等処分業を規制するとともに,産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。

したがって,産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物等処分業の許可処分及び許可更新処分の取消し及び無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟及び無効確認訴訟における原告適格を有するものというべきである。また,以上の理は,前記(1)イにおいて説示したところを踏まえると,上記許可の取消処分の義務付けを求める訴えについても,同様に解される(廃棄物処理法14条の3の2第2項,14条の6参照)。 

エ 産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民が,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるか否かは,当該住民の居住する地域が上記の著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域であるか否かによって判断すべきものと解される。そして,当該住民の居住する地域がそのような地域であるか否かについては,産業廃棄物の最終処分場の種類や規模等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で,当該住民の居住する地域と当該最終処分場の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものである(前記最高裁第三小法廷判決参照)。

しかるところ,産業廃棄物の最終処分場の設置に係る許可に際して申請書の添付書類として提出され審査の対象となる環境影響調査報告書において,当該最終処分場の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の対象とされる地域は,最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等がその周辺の一定範囲の地域に広がり得る性質のものであることや,前記ア(ウ)においてみた上記の環境影響調査報告書に記載されるべき調査の項目と内容及び調査の対象とされる地域の選定の基準等に照らせば,一般に,当該最終処分場の種類や規模及び埋立ての対象とされる産業廃棄物等の種類等の具体的な諸条件を踏まえ,その設置により生活環境に影響が及ぶおそれのある地域として上記の調査の対象に選定されるものであるということができる。 

これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件処分場の種類や規模及び埋立ての対象とされている産業廃棄物等の種類等は前記2(4)のとおりであるところ,上告人X1を除くその余の上告人らは,いずれも本件処分場の中心地点から約1.8㎞の範囲内の地域に居住する者であって,本件環境影響調査報告書において調査の対象とされた地域にその居住地が含まれているというのである。そして,上記のような本件処分場の種類や規模等を踏まえ,その位置と上記の居住地との距離関係などに加えて,環境影響調査報告書において調査の対象とされる地域が,上記のとおり一般に当該最終処分場の設置により生活環境に影響が及ぶおそれのある地域として選定されるものであることを考慮すれば,上記の上告人らについては,本件処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域に居住するものということができ,上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められるから,本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相当である。 

これに対し,前記事実関係等によれば,上告人X1の居住地は,本件処分場の中心地点から少なくとも20㎞以上離れており,本件環境影響調査報告書において調査の対象とされた地域にも含まれておらず,上記のような本件処分場の種類や規模等を踏まえ,その位置と上記の居住地との20㎞以上にも及ぶ距離関係などに照らせば,同上告人については,本件処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域に居住するものということはできないのであって,上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるとは認められず,他に,同上告人が原告適格を有すると解すべき根拠は記録上も見当たらないから,同上告人が本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有すると解することはできない。

5 以上のとおり,上告人X1を除くその余の上告人らが本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいう限度において理由があり,原判決のうち上記の上告人らに関する部分は破棄を免れず,また,上記の上告人らについて本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める訴えを却下した第1審判決も取消しを免れない。そこで,本件各許可処分及び本件各更新処分の適法性等について審理させるため,原判決のうち上記の上告人らに関する部分につき,本件を第1審に差し戻すべきである。

他方,上告人X1が本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しないとして同上告人の訴えを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができるから,同上告人の上告は,これを棄却することとする。