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先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたのちの先取特権者による物上代位権の行使

 昭和60年7月19日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
一 先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、そののちに先取特権者が右債権に対し物上代位権を行使することを妨げない。

二 転付命令が第三債務者に送達される時までに転付命令に係る金銭債権について他の債権者が差押、仮差押の執行又は配当要求をした場合でも、転付命令を得た債権者が優先権を有するときは、転付命令はその効力を生じる。

三 差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法一五六条二項に基づいてした供託は、転付命令が効力を生じているため法律上差押の競合があるとはいえない場合であつても、第三債務者に転付命令の効力の有無についての的確な判断を期待しえない事情があるときは、同項の類推適用により有効である。

四 差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者のした供託が民事執行法一五六条二項の類推適用により有効である場合において、右供託金について転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに配当表が作成されたときは、効力の生じた転付命令を得た債権者は、配当期日における配当異議の申出さらには配当異議の訴えにより転付命令に係る債権につき優先配当を主張して配当表の変更を求めることができる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/697/052697_hanrei.pdf

 

一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 上告人は、D商会ことE(「本件債務者」)に対し溶接用材等を売り渡して二一三万八三一〇円の売掛代金債権を有していたところ、本件債務者が右動産を株式会社F造船工業(「本件第三債務者」)に対し代金二六三万四〇三〇円で転売したため(「本件転売代金」)、本件転売代金債権に対し民法三〇四条一項本文により動産の先取特権を行うことができる権利(「本件物上代位権」)を取得し、その行使として、昭和五七年三月一〇日、本件転売代金債権のうち二一三万八三一〇円について、差押(大阪地方裁判所同年(ナ)第四四七号)及び転付命令(同年(ヲ)第七一一号)(「本件転付命令」)を取得し、同命令は同月一一日本件第三債務者に送達された。

 2 上告人は、昭和五七年三月五日、本件債務者に対する溶接棒の売掛代金債権五〇万二〇〇〇円を被保全債権として、本件転売代金債権のうち右同額について、仮差押命令(同庁同年(ヨ)第八一五号)を取得し、同命令は、同日本件第三債務者に送達された。

 3 被上告人B1産業株式会社は、昭和五七年三月四日、本件債務者に対する約束手形金債権四四五万五五五〇円及び売掛代金債権一六一万三三四〇円の合計六〇六万八八九〇円を被保全債権とし、本件転売代金債権額を三二一万四九一〇円として、右同額について、仮差押命令(同庁同年(ヨ)第八〇三号)を取得し、同命令は同月五日本件第三債務者に送達された。

 4 被上告人B2信用金庫は、昭和五七年三月四日、本件債務者に対する約束手形買戻債権二二九万三三〇〇円を被保全債権として、本件転売代金債権のうち右同額について、仮差押命令(和歌山地方裁判所同年(ヨ)第四八号)を取得し、同命令は同日本件第三債務者に送達された。

 5 そこで、その後、本件第三債務者は本件転売代金債務全額を供託した(「本件供託」)。

 6 大阪地方裁判所は、本件供託金の配当を実施するため(同庁昭和五七年(リ)第五五一号)、昭和五七年一二月三日の配当期日に、別紙一のとおり、手続費用を除いた金額について上告人及び被上告人らの各債権額に応じて配分する配当表(「本件配当表」)を作成した。

 二 本訴において、上告人は、本件物上代位権を行使して本件転付命令を取得したから、本件転付命令に係る債権につき優先配当を受けるべき権利を有する旨主張して、本件配当表を別紙二のとおり変更する旨の判決を求めた。

 三 原審は、前記の事実を確定したうえ、民法三〇四条一項但書にいう差押は、先取特権に基づく物上代位権についての優先権保全のための対抗要件と解すべきであり、また、同項但書にいう払渡又は引渡には、物上代位の目的となる債権に対する一般債権者による差押、仮差押の執行も含まれると解すべきところ、本件においては、被上告人らによる本件転売代金債権に対する仮差押の執行が上告人による本件転売代金債権に対する差押に先行してされているから、上告人は被上告人らに対し、物上代位権を行使した動産の先取特権者として優先権を主張することができないものというべきであり、したがつて、本件供託金につき手続費用を除いた金額について上告人及び被上告人らに対し、その各債権額に応じて配分した本件配当表に瑕疵はない旨判断して、上告人の本訴請求を全部棄却すべきものとし、これと同旨の第一審判決を正当として控訴棄却の判決をした。

 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(「目的債権」)の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである(最高裁昭和五九年二月二日第一小法廷判決)。

これを本件についてみると、前記事実関係によれば、一般債権者たる被上告人らは、本件転売代金債権について仮差押の執行をしたにすぎないから、その後に上告人が本件物上代位権を行使することは妨げられないものというべきである。

これと異なる原審の判断には民法三〇四条一項の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえない。

 五 次に、本件配当異議の訴えの適否について判断する。

 1 民事執行法一五九条三項は、「転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押え、仮差押えの執行又は配当要求をしたときは、転付命令は、その効力を生じない。」と規定するが、転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押、仮差押の執行又は配当要求をした場合でも、転付命令を得た者が物上代位権を行使した先取特権者であるなど優先権を有する債権者であるときは、右転付命令は、その効力を生ずるものと解すべきところ、本件の前記事実関係によれば、上告人が本件物上代位権の行使として得た本件転付命令は、被上告人らの仮差押が執行されたのちに本件第三債務者に送達されたものではあるが、その効力を生じたものというべきである。

 2 ところで、当該債権に対し差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法一五六条二項に基づいてした供託は、転付命令が効力を生じているため法律上差押の競合があるとはいえない場合であつても、第三債務者に転付命令の効力の有無についての的確な判断を期待しえない事情があるときは、同項の類推適用により有効であると解するのが相当である。

そして、右供託金について、転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに、これを得た債権者を含む全差押債権者に対し、その各債権額に応じて配分する配当表が作成されたときは、転付命令を得た債権者は、配当期日における配当異議の申出、さらには配当異議の訴えにより、転付命令に係る債権につき優先配当を主張して配当表の変更を求めることができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記事実関係のもとにおいて、本件供託は、民事執行法一七八条五項において準用する同法一五六条二項に基づいてされたものと解せられるところ、本件転付命令は本件供託前に確定してその効力が生じたことが記録上明らかであるから、本件転売代金債権に対する差押の競合があるとはいえない。

しかし、本件転付命令は被上告人らの仮差押が執行されたのちに本件第三債務者に送達されたものではあるが、その効力の有無について本件第三債務者に的確な判断を期待することは困難であるから、本件供託は、民事執行法一七八条五項において準用する同法一五六条二項の類推適用により有効なものというべきである。

そして、本件転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに作成された本件配当表について、上告人が本件転付命令に係る債権につき優先配当を主張した配当異議の申出及び本件配当異議の訴えは、適法なものというべきである。

 六 以上によれば、本件の事実関係のもとにおいては、前記説示に徴し、上告人の本訴請求は全部理由があるものというべきである。

したがつて、原審の前記法令の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、論旨は理由があるから、原判決を破棄し、第一審判決を取消し、本訴請求を全部認容することとする。

 

民事執行法

(転付命令)
第百五十九条 執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、支払に代えて券面額で差し押さえられた金銭債権を差押債権者に転付する命令(以下「転付命令」という。)を発することができる。
2 転付命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
3 転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押え、仮差押えの執行又は配当要求をしたときは、転付命令は、その効力を生じない。
4 第一項の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
5 転付命令は、確定しなければその効力を生じない。
6 差し押さえられた金銭債権が第百五十二条第一項各号に掲げる債権又は同条第二項に規定する債権である場合(差押債権者の債権に第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権が含まれているときを除く。)における前項の規定の適用については、同項中「確定しなければ」とあるのは、「確定し、かつ、債務者に対して差押命令が送達された日から四週間を経過するまでは、」とする。
7 転付命令が発せられた後に第三十九条第一項第七号又は第八号に掲げる文書を提出したことを理由として執行抗告がされたときは、抗告裁判所は、他の理由により転付命令を取り消す場合を除き、執行抗告についての裁判を留保しなければならない。
(転付命令の効力)
第百六十条 転付命令が効力を生じた場合においては、差押債権者の債権及び執行費用は、転付命令に係る金銭債権が存する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす。

 

 

第36条の5関係 転付命令等の効力が生じない場合
滞納処分による差押えと転付命令等の効力
 強制執行による転付命令又は譲渡命令(以下「転付命令等」という。)が第三債務者に送達される時までに、転付命令等に係る債権につき滞納処分による差押えがされたときは、転付命令等はその効力を生じない。この場合の転付命令とは、執行裁判所が差押債権者の申立てにより、支払に代えて券面額で差押えられた金銭債権を差押債権者に転付する命令をいい(執行法159条1項)、譲渡命令とは、執行裁判所が差押債権者の申立てにより差押えられた債権が条件付等債権である場合において、当該債権を執行裁判所が定めた価額で支払に代えて差押債権者に譲渡する命令をいう(執行法161条1項)。