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迷惑行為防止条例違反被疑事件において勾留請求を却下した原々裁判を取り消して勾留を認めた原決定に刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例

平成26年11月17日最高裁判所第一小法廷決定

判示事項    
迷惑行為防止条例違反被疑事件において勾留請求を却下した原々裁判を取り消して勾留を認めた原決定に刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/640/084640_hanrei.pdf

 

所論に鑑み,職権により調査する。

本件被疑事実の要旨は,「被疑者は,平成26年11月5日午前8時12分頃から午前8時16分頃までの間,京都市営地下鉄烏丸線五条駅から烏丸御池駅の間を走行中の車両内で,当時13歳の女子中学生に対し,右手で右太腿付近及び股間をスカートの上から触った」というものである。
原々審は,勾留の必要性がないとして勾留請求を却下した。

これに対し,原決定は,「被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立しており,被害少女の被害状況についての供述内容が極めて重要であること,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあることからすると,被疑者が被害少女に働きかけるなどして,罪体について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる」とし,勾留の必要性を肯定した。

被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。

本件事案の性質に加え,本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると,原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ,原決定の説示をみても,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで,その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。

そうすると,勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取り消して,勾留を認めた原決定には,刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判をすると,上記のとおり本件について勾留請求を却下した原々審の裁判に誤りがあるとはいえないから,本件準抗告は,同法432条,426条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

 

第六十条

裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
Article 60

(1)The court may detain the accused when there is probable cause to suspect that the accused has committed a crime and when:
一被告人が定まつた住居を有しないとき。
(i)the accused has no fixed residence;
二被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
(ii)there is probable cause to suspect that the accused may conceal or destroy evidence;
三被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
(iii)the accused has fled or there is probable cause to suspect that the accused may flee.
2勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
(2)The period of detention is two months from the date of institution of prosecution. When it is especially necessary to continue the detention, the period may be extended for additional one-month periods by a ruling with a specific reason,; provided however, that the extension is only allowed once, except as otherwise prescribed in Article 89, item (i), (iii), (iv) or (vi).
3三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
(3)With regard to cases which are punished with a fine of not more than 300,000 yen (with regard to crimes other than those under the Penal Code, the Act on Punishment of Physical Violence and Others (Act No. 60 of 1925), and the Act on Penal Provisions related to Economic Activities (Act No. 4 of 1944), 20,000 yen for the time being), penal detention or a petty fine, the provisions of paragraph (1) of this Article apply only when the accused has no fixed residence.
第六十一条被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。
Article 61The accused may not be detained unless said accused has been informed of the case and a statement has been taken from the accused; provided however, that this does not apply if the accused has fled.