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 刑法46条2項により刑を科さないとされた公訴事実に係る未決勾留日数の算入

平成18年8月31日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
併合罪関係にある数罪を併合審理して刑を言い渡す場合,刑法46条2項により刑を科さないとされた公訴事実に係る未決勾留日数を非勾留事実に係る罪に対する無期懲役刑及び罰金刑にそれぞれ算入することができる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/485/033485_hanrei.pdf

所論にかんがみ,職権で判断する。

1 被告人は,第1審判示第8の事実と公訴事実の同一性が認められるわいせつ略取,強盗強姦罪の被疑事実により勾留され,勾留中求令状として起訴され,同罪につき新たに発付された勾留状で勾留されたが,同勾留は,その後の数次にわたる勾留期間更新決定により継続されて第1審判決に至った。

その間被告人に対しては,別件勾留中として,いずれも勾留されないまま,合計7回の追起訴がされ,これらの事件は併合審理された。

第1審判決は,第1審判示第1ないし第14の各事実を認定して,勾留された同第8の罪につき有期懲役刑を,勾留されていない同第5の罪につき無期懲役刑をそれぞれ選択するなどした上,これらを刑法45条前段の併合罪と認め,同法46条2項,48条1項により上記無期懲役刑に勾留されていない同第10の罪(法定刑は50万円以下の罰金)の罰金刑のみを併科して,被告人を無期懲役及び罰金15万円に処し,同法21条を適用して,未決勾留日数のうち,400日をその無期懲役刑に,30日を1日5000円に換算して罰金額に満つるまでその罰金刑にそれぞれ算入した。そして,原判決もこれを維持した。

2 所論は,刑法21条の解釈上,未決勾留日数は勾留された罪の刑を同条にいう「本刑」としてこれに算入すべきものであり,本件では,無期懲役刑が本刑に当たるから,第1審判決がした罰金刑への未決勾留日数の算入を原判決が是認したのは誤りであるという。

そこで検討するに,刑法21条は,裁判所が未決勾留日数の全部又は一部を刑に算入するのが相当であると認める場合に,勾留事実に係る罪に対する刑に算入するのを原則とし,この原則によるのが相当でないと認められる特段の合理的理由があるときには,非勾留事実に係る罪に対する刑に算入することも許す趣旨と解するのが相当である。

そして,刑法は,併合罪関係にある数罪を併合審理して刑を言い渡す場合,その数罪を包括的に評価して,それに対し1個の主文による刑を言い渡すべきものとしているから,勾留事実に係る罪を含む併合罪関係にある数罪についての刑に未決勾留日数を算入する限り,上記原則に従ったものであり,この理は,本件のように懲役刑に罰金刑を併科するものであるときでも異なるものではないというべきである。

そうすると,本件は,認定された各罪が併合罪関係にある事案であるから,勾留されていない事実に係る罰金刑に,併合審理された他の事実に係る未決勾留日数を算入した第1審判決を維持した原判決には,何ら違法はないというべきである。