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法定刑の軽微な事件について身柄拘束の不必要な長期化を避けるための配慮が十分であったとはいえないとされた事例

 平成14年6月5日最高裁判所第二小法廷決定

判示事項    
1 法定刑の軽微な事件について身柄拘束の不必要な長期化を避けるための配慮が十分であったとはいえないとされた事例
2 罰金刑に未決勾留日数を算入しなかったことが量刑判断を誤ったものであるが,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められないとされた事例

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/832/057832_hanrei.pdf

訴訟経過にかんがみ,未決勾留日数の本刑算入の点について職権で判断する。
 1 本件は,被告人が朝の通勤電車内で女子高校生にいわゆる痴漢行為をしたという平成13年東京都条例第96号による改正前の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号)違反の事案である。
 2 記録によれば,以下の事実が認められる。
 (1) 被告人は,平成12年6月27日,本件で現行犯逮捕された後,同月29日に勾留され,勾留期間を延長された上,同年7月14日,勾留のまま東京簡易裁判所に本件により起訴された。
 (2) 同月27日に本件起訴状の謄本が被告人に送達され,同年8月4日に国選弁護人が選任され,同年9月5日,勾留期間更新決定がされた。同月13日に行われた第1回公判期日において,被告人は,公訴事実については身に覚えがないと陳述し,弁護人も,被告人は無罪であると主張し,検察官が取調べを請求した書証のうち同意があったものの取調べ等が行われた。
 (3) 同日,弁護人が被告人の勾留の執行停止を申し立てたが,裁判所は,職権を発動せず,同月26日に弁護人が被告人の保釈を請求したところ,裁判所は,同月29日の第2回公判期日において被害者等の証人尋問が終了した後,保釈を許可し,同日,被告人は釈放された。
 (4) 東京簡易裁判所は,同年12月15日,被告人に対し,罰金5万円,労役場留置(金5000円を1日に換算),訴訟費用一部負担の有罪判決を言い渡し,被告人は,これを不服として控訴を申し立て,事実誤認の主張をしたが,控訴審東京高等裁判所は,平成13年5月17日,控訴棄却の判決を言い渡した。
 3 改正前の前記条例による本罪の法定刑は5万円以下の罰金又は拘留若しくは科料というものであった。ところが,被告人の未決勾留期間は93日間,起訴後の勾留期間に限っても78日間に及んでいるのであり,前記の審理経過に照らすと,このような法定刑の軽微な事件について,身柄拘束の不必要な長期化を避けるための配慮が十分であったとはいえない上,上記未決勾留期間のすべてが本件の審理にとって通常必要な期間であったとも認め難い。

そうすると,第1審判決が未決勾留日数を本刑に全く算入しなかったのは,刑法21条の趣旨に照らして問題があり,刑の量定に関する判断を誤ったものといわざるを得ないが,未決勾留日数の算入に関する判断は,本来判決裁判所の裁量にかかるものであることなどにかんがみると,上記第1審判決を是認した原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。