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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 宗教法人の所有する土地の明渡しを求める訴えが,法律上の争訟に当たらず,不適法とされた事例

平成21年9月15日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
宗教法人がその所有する土地の明渡しを求める訴えは,請求の当否を決する前提問題となっている占有者である住職に対する擯斥処分の効力を判断するために,宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断することを避けることができないという事情の下においては,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらず,不適法である。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/986/037986_hanrei.pdf

 

本件は,宗教法人である上告人が,A寺の庫裏及び本堂等(「本件各建物」)を占有してA寺の境内地(「本件土地」)を占有している被上告人に対し,本件土地の所有権に基づき,本件各建物から退去して本件土地を明け渡すことを求める事案である。

上告人は,被上告人が,上告人を包括する宗教法人であるB(「包括法人」)の懲誡規程4条1項3号所定の「宗旨又は教義に異議を唱え宗門の秩序を紊した」との擯斥事由に該当するとして,包括法人から擯斥処分を受けたことにより,A寺の住職の地位を失い,その結果,上告人の代表役員の地位も喪失したから,本件土地の占有権原を失ったと主張している。

原審は,上記擯斥処分の効力の有無が本件請求の当否を決する前提問題となっており,この点を判断するために上記擯斥事由の存否を審理する必要があるところ,そのためには,包括法人の「宗旨又は教義」の内容について一定の評価をすることを避けることができないから,上告人の訴えは,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらないとして,これを却下した。

所論は,上記擯斥処分は,包括法人の宗制では管長以外の者が法階を授与することは禁じられているにもかかわらず,被上告人が在家僧侶養成講座の講師として受講者に法階を授与したことを,その理由とするものであって,被上告人の上記行為が上記擯斥事由に該当するか否かについては,宗教上の教義ないし信仰の内容について評価をしなくても判断が可能であるのに,上告人の訴えを「法律上の争訟」に当たらないとした原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。

本件記録によれば,上記懲誡規程5条1号は,「宗制に違反して甚だしく本派の秩序を紊した」ことを剥職事由として定めているところ,包括法人において,法階は,管長が叙任することとされているのであるから(管長及び管長代務者規程3条1項6号,法階規程1条2項),被上告人の上記行為が上記剥職事由に該当するか否かが問題となっているのであれば,必ずしも宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断する必要はなかったものと考えられる。

しかし,上告人は,被上告人の上記行為が懲誡規程4条1項3号所定の擯斥事由に該当する旨主張しているのであって,この主張及び上記擯斥事由の内容に照らせば,本件訴訟の争点である上記擯斥処分の効力の有無を判断するには,宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断することを避けることはできないから,上告人の訴えは,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらず,不適法というべきである。

これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例最高裁平成元年9月8日第二小法廷判決,最高裁平成5年9月7日第三小法廷判決,最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決)は,事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

Legal Summary:
When a religious corporation seeks the delivery of land it owns, before deciding on the validity of the claim, it becomes necessary to delve into the religious doctrine or faith content to determine the effect of the expulsion order against the incumbent priest, who is the possessor. Under such circumstances, it does not fall under the "lawsuit under law" mentioned in Article 3 of the Court Act, and is therefore unlawful.

 

弁護士中山知行