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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の訴訟において相殺を認めた確定判決の他の債務者に対する効力

昭和53年3月23日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
不真正連帯債務者中の一人と債権者との間で右債務者の反対債権をもつてする相殺を認める判決が確定しても、右判決の効力は他の債務者に及ぶものではない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/129/064129_hanrei.pdf

 

記録によれば、本件訴訟の内容及び経過は次のとおりである。

(一) 本件訴訟は、亡Dの運転する貨物自動車と訴外E運輸有限会社(「E運輸」)が運行の用に供し、訴外Fが運転する貨物自動車との国道上での衝突によりDが死亡した事故につき、同人の妻又は子である上告人らが被上告人の道路管理の瑕疵が事故の原因であるとして被上告人に対し損害賠償を請求したものである。

(二) 第一審においては、E運輸も被上告人とともに被告とされたところ、同会社は、同一事故により生じた同会社の上告人らに対する損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁を提出し、第一審はその一部を容れて、上告人らの取得した損害賠償請求権の額から支払のあつた自動車損害賠償保険金額及び相殺の認められた金額を控除した残額について上告人らの同会社に対する請求を認容する判決をし、右判決は控訴がなく確定した。

(三) ところが、第一審において、上告人らと被上告人との間では右相殺の主張がなされなかつたため、上告人らの被上告人に対する請求の認容額は、その総額においてE運輸に対する請求の認容額よりも前記相殺額だけ高額となつた。

(四) 被上告人は、右第一審判決に対して控訴したうえ原審において、上告人らとE運輸との間においては前記のような内容の第一審判決が確定したが、被上告人とE運輸とは上告人らに対して不真正連帯債務を負う関係にあるから、被上告人の上告人らに対する賠償義務も前記相殺額の限度で消滅したとの主張をしたところ、原審はこれを容れて第一審判決を変更し、結局被上告人に対してもE運輸と同額の損害賠償を命じた。

(五) 原審は、右判決をなすにあたつて、本件事故につき被上告人と共に不真正連帯債務を負担するE運輸と上告人らとの間で前記のような内容の第一審判決が確定したことを認定したのみで、相殺の自働債権とされたE運輸の損害賠償請求権の存在を認定することなく、右確定判決の存在から直ちに被上告人の損害賠償義務が同判決で認められた相殺額の限度で消滅したものと判断した。

しかしながら、不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の確定判決は、他の債務者にその効力を及ぼすものではなく、このことは、民訴法一九九条二項により確定判決の既判力が相殺のために主張された反対債権の存否について生ずる場合においても同様であると解すべきである。

もとより、不真正連帯債務者の一人と債権者との間で実体法上有効な相殺がなされれば、これによつて債権の消滅した限度で他の債務者の債務も消滅するが、他の債務者と債権者との間の訴訟においてこの債務消滅を認めて判決の基礎とするためには、右相殺が実体法上有効であることを認定判断することを要し、相殺の当事者たる債務者と債権者との間にその相殺の効力を肯定した確定判決が存在する場合であつても、この判決の効力は他の債務者と債権者との間の訴訟に及ぶものではないと解すべきであるから、右認定判断はこれを省略することはできない。

したがつて、上告人らとE運輸の間に前記のような内容の確定判決が存在することから、直ちに被上告人の債務が右判決によつて認められた相殺の金額の限度で消滅したものとした原判決は、判決の効力に関する法の解釈を誤つたか、理由不備の違法を犯したものであり、右法解釈の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

そしてE運輸が相殺に供した上告人らに対する反対債権が実体法上有効に存在するものであるならば、右反対債権を以てする相殺が民法五〇九条により許されないものであるにせよ(最高裁昭和三二年四月三〇日第三小法廷判決、最高裁昭和四九年六月二八日第三小法廷判決)、民訴法一九九条二項による確定判決の既判力の効果として、E運輸は右反対債権を行使することができなくなり、その反面として上告人らはそれだけの利益を受けたことになるのであつて、右事実はE運輸が弁済等その出捐により上告人らの債権を満足させて消滅せしめた場合と同視することができるから、被上告人の上告人らに対する損害賠償債務もその限度で消滅したことになるものと解すべきである。

上告人らと被上告人との間においては未だ訴訟上右反対債権の存在は確定されていないのであるから、この点について審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのを相当とする。(なお、原審認定の事実関係に照らし本件事故はD、F双方の過失と被上告人の道路管理の瑕疵との競合により発生したものとされることが予想されるが、その場合、上告人らと被上告人とは右事故によるE運輸の損害賠償請求につき不真正連帯債務者たる立場に立つものであるから、もしE運輸の右反対債権が存在し、その内容が前記確定判決が認定しているようなものであるとすれば、前記のとおり上告人らとE運輸との間で右反対債権を自働債権とする相殺を肯定する判決が確定した以上、上告人らは国に対してこれに基づく求償権を取得するものと解される。)

 

 

"Even if a judgment confirms a set-off due to a counterclaim by one party within a Fraudulent Joint and Several Debt against the creditor, the impact of such a judgment doesn't extend to the other debtors."

 

弁護士中山知行