最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

刑法第二三〇条ノ二にいう「真実ナルコトノ証明アリタルトキ」に当らず、名誉毀損罪の成立する事例

昭和34年5月7日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
 一 Xが、確証もないのに、YにおいてX方庭先の燻炭囲の菰に放火したものと思い込み、X方でYの弟Aおよび火事見舞に来た村会議員Bに対し、またY方でその妻C、長女Dおよび近所のE、F、G等に対し、問われるままに、「Yの放火を見た」、「火が燃えていたのでYを捕えることはできなかつた」旨述べたときは(その結果、本件ではYが放火したという噂が村中に相当広まつている。)不定多数の人の視聴に達せしめ得る状態において事実を摘示しYの名誉を毀損したものとして名誉毀損罪が成立する。
二 右の場合、XがY(未起訴)において放火したものと誤信していたとしても、記録およびすべての証拠上、Yが右放火の犯人であることが確認できないときは、刑法第二三〇条ノ二にいう「真実ナルコトノ証明」がなされなかつたものとして、Xは名誉毀損の罪責を免れることができない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51632

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/632/051632_hanrei.pdf

所論は原判決の憲法二一条、二二条、三五条違反及び大審院判例違反を主張する。しかし、原判決は第一審判決の認定を維持し、被告人は不定多数の人の視聴に達せしめ得る状態において事実を摘示したものであり、その摘示が質問に対する答としてなされたものであるかどうかというようなことは、犯罪の成否に影響がないとしているのである。そして、このような事実認定の下においては、被告人は刑法二三〇条一項にいう公然事実を摘示したものということがききるのであり、かく解釈したからといつてなんら所論憲法各法条の保障する自由を侵害したことにはならないのはもちろん(昭和三一年(あ)第三三五九号、同三三年四月一〇日当小法廷判決・集一二巻五号八三〇頁以下参照)、また、所論判例と相反する判断をしたことにもならない。従つて、論旨はいずれも採用し難い。
同第二点(ロ)および同第三点について。
所論は原判決の東京高等裁判所および大阪高等裁判所の各判例違反をいうけれども、本件記録およびすべての証拠によつても、Hが本件火災の放火犯人であると確認することはできないから、被告人についてはその陳述する事実につき真実であることの証明がなされなかつたものというべく、被告人は本件につき刑責を免れることができないのであつて、これと同趣旨に出でた原判断は相当であり(昭和三一年(あ)第九三八号、同三二年四月四日当小法廷決定を参照)、何ら所論東京高等裁判所判例と相反するものではなく、所論大阪高等裁判所判例は右と抵触する限度において改めらるべきものであるから、論旨は採用できない。